【徹底比較】美容室経営ならどっち?美容国保と社会保険のメリット・デメリットを解説

美容室の保険選びで「美容国保と社会保険、どっちがお得?」と悩んでいませんか。結論から言うと、最適な保険は個人経営か法人か、従業員数によって異なります。この記事では、両者の保険料や保障内容のメリット・デメリットを一覧表で分かりやすく徹底比較。あなたの経営スタイルに合った保険はどちらなのかが明確になり、加入や切り替え手続きまで迷わず進められるようになります。

目次

1. 美容室経営者が知っておくべき2つの保険制度の基礎知識

美容室を経営する上で、オーナー自身や従業員の公的医療保険をどうするかは非常に重要な問題です。選択肢は主に「美容国保」と「社会保険」の2つ。それぞれに特徴があり、経営スタイルや事業規模によって最適な選択は異なります。まずは、この2つの保険制度がどのようなものなのか、基本的な知識を正しく理解することから始めましょう。

1.1 美容師のための国民健康保険「美容国保」とは

美容国保とは、正式には「全国美容業国民健康保険組合」などが運営する、美容師や理容師といった同種の事業に従事する人々が加入できる国民健康保険組合のことです。個人事業主やフリーランスの美容師が多く加入しており、市区町村が運営する国民健康保険(市町村国保)とは異なる制度です。

最大の特徴は、保険料の計算方法にあります。市町村国保の保険料が前年の所得に応じて大きく変動するのに対し、美容国保は所得に関わらず、組合員の区分(年齢や世帯構成など)によって保険料が一律で決まります。そのため、所得が高い個人事業主にとっては、保険料の負担を抑えられる可能性があるというメリットがあります。

1.2 法人や従業員5名以上で加入義務がある「社会保険」とは

一般的に「社会保険」と呼ばれるものは、「健康保険」と「厚生年金保険」を合わせた総称です。病気やケガ、出産、死亡、老齢、障害といった様々なリスクに備えるための公的な保険制度で、美容国保に比べて保障が手厚いのが特徴です。

社会保険への加入は、事業所の形態によって義務付けられています。具体的には、株式会社などの法人を設立した場合は、社長1人であっても加入義務があります。また、個人事業主の美容室であっても、常時5人以上の従業員を雇用している場合は「強制適用事業所」となり、加入が義務となります。保険料は、従業員の給与(標準報酬月額)に応じて決まり、その金額を会社と従業員が半分ずつ負担する「労使折半」という仕組みになっています。これは、経営者が従業員の保険料の半分を負担する必要があることを意味します。

2. 【一覧表で比較】美容国保と社会保険のメリット・デメリット

美容室経営において、美容国保と社会保険のどちらを選ぶべきか、その違いは非常に重要です。保険料の負担額、病気やケガをした際の保障内容、そして家族を支える扶養の考え方など、経営者と従業員の双方に大きく影響します。まずは、両者の違いが一目でわかる比較表で全体像を掴みましょう。

比較項目美容国保(美容師のための国民健康保険)社会保険(健康保険・厚生年金保険)
保険料収入に関わらず定額(組合により異なる)収入(標準報酬月額)に応じて変動
保険料負担全額自己負担事業主と従業員で半分ずつ負担(労使折半)
傷病手当金原則としてないある(業務外の病気やケガで休業した場合)
出産手当金原則としてないある(出産のために休業した場合)
年金制度国民年金のみ国民年金 + 厚生年金(2階建て)
扶養制度ない(家族も一人ひとり加入・保険料が発生)ある(条件を満たせば家族の保険料負担なし)

この表からもわかるように、保険料の仕組みから保障の手厚さまで、両者には明確な違いがあります。以下で、それぞれの比較ポイントについて詳しく解説していきます。

2.1 比較ポイント1 保険料の負担額と計算方法

毎月の固定費として経営に直結するのが保険料です。美容国保と社会保険では、その計算方法と負担の考え方が根本的に異なります。

2.1.1 美容国保の保険料は収入に関わらず一定

美容国保の最大の特徴は、所得や売上に関係なく、保険料が一律である点です。保険料は加入する組合によって定められており、年齢や家族構成によって金額が決まります。そのため、開業したばかりで収入が不安定な時期や、売上が低い月でも保険料は変わりません。逆に、事業が軌道に乗り高収入を得られるようになると、社会保険に比べて保険料が割安になるというメリットがあります。

2.1.2 社会保険の保険料は収入に応じて変動

社会保険(健康保険・厚生年金)の保険料は、給与額を基にした「標準報酬月額」によって決まります。つまり、収入が高くなるほど保険料も上がる仕組みです。さらに重要なのが、保険料を事業主(会社)と従業員(被保険者)が半分ずつ負担する「労使折半」である点です。経営者にとっては、従業員の給与を上げると会社の保険料負担も増えるため、資金計画において考慮すべき重要な要素となります。

2.2 比較ポイント2 保障内容の手厚さ

万が一の病気やケガ、ライフイベントに備える保障内容は、保険を選ぶ上で非常に重要なポイントです。特に、身体が資本である美容師にとって、働けなくなったときのリスクヘッジは欠かせません。

2.2.1 病気やケガの保障「傷病手当金」の有無

社会保険の大きなメリットとして「傷病手当金」が挙げられます。これは、業務外の病気やケガで連続して4日以上働けなくなった場合に、給与のおおよそ3分の2が最長1年6ヶ月間支給される制度です。一方、美容国保にはこの傷病手当金の制度が原則としてありません。長期間仕事から離れざるを得なくなった場合、社会保険に加入しているかどうかで生活の安定度が大きく変わってきます。

2.2.2 出産時の保障「出産手当金」の有無

女性従業員が出産する際に受けられる保障にも違いがあります。社会保険には、産前産後休業中に給与の支払いがない場合に、給与のおおよそ3分の2が支給される「出産手当金」があります。しかし、美容国保にはこの制度も原則ありません(出産育児一時金はどちらもあります)。女性スタッフが多く活躍する美容室にとって、出産・育児をサポートする福利厚生の観点から、社会保険の加入は大きなアピールポイントになります。

2.2.3 将来の年金額(国民年金と厚生年金)

老後の生活を支える年金制度も、両者で大きく異なります。美容国保の加入者は、基礎となる「国民年金」のみに加入します。一方で、社会保険の加入者は「国民年金」に加えて「厚生年金」にも加入する「2階建て」の構造になっています。厚生年金は現役時代の収入に応じて保険料を納めるため、その分、将来受け取れる年金額が国民年金のみの場合よりも手厚くなります

2.3 比較ポイント3 家族を養う「扶養」の考え方

従業員や経営者自身に扶養家族がいる場合、保険の選択は家計に直接的な影響を与えます。この「扶養」の概念の有無が、両者の決定的な違いの一つです。

美容国保には、「扶養」という考え方がありません。そのため、配偶者や子供など家族がいる場合は、その家族一人ひとりも被保険者として加入し、人数分の保険料を支払う必要があります。家族が多ければ多いほど、世帯としての保険料負担は大きくなります。

対して、社会保険には「扶養」制度があります。被保険者(従業員)の収入によって生計を立てており、年収が一定額未満などの条件を満たす家族は、追加の保険料負担なしで健康保険に加入できます。被扶養者となった家族も、被保険者本人と同様の保険給付を受けられるため、家族がいる方にとっては非常に大きなメリットと言えるでしょう。

3. 美容室の経営スタイル別 おすすめの保険はこれ

美容国保と社会保険、それぞれの特徴を理解した上で、ご自身の美容室の状況に最も適した保険はどちらなのか、具体的なケース別に解説します。経営スタイルによって最適な選択は大きく異なりますので、ご自身の状況と照らし合わせて確認してみてください。

3.1 個人事業主で一人経営または家族経営の場合

個人事業主として一人で美容室を経営している、または配偶者や親族と家族経営をしている場合は、美容国保への加入がおすすめです。

この経営スタイルでは、社会保険の加入義務はありません。美容国保の最大のメリットは、保険料が所得に左右されず一定である点です。そのため、事業が軌道に乗り所得が増えても、保険料の負担が急激に増える心配がありません。コスト管理がしやすく、手元に残る資金を運転資金や設備投資に回しやすいでしょう。

ただし、社会保険に比べて保障内容が手薄である点は考慮が必要です。将来の年金は国民年金のみとなり、病気やケガで働けなくなった際の傷病手当金や、出産時の出産手当金もありません。これらの保障を補うために、別途、民間の保険やiDeCo(個人型確定拠出年金)、国民年金基金への加入を検討することをおすすめします。

3.2 従業員を雇用している個人事業主の美容室の場合

従業員(スタッフ)を雇用している個人事業主の美容室では、その従業員数によって選択肢、あるいは義務が変わってきます。

常時雇用する従業員が4人以下の場合は、社会保険の加入は任意です。この場合、オーナー自身の保険料負担を抑えることを優先するなら、引き続き美容国保を選択するのが一般的です。しかし、求人募集の際に「社会保険完備」をアピールしたい場合は、任意で社会保険に加入することも有効な戦略です。福利厚生の充実は、優秀な人材の確保や定着に繋がり、サロンの成長を後押しします。

一方、常時雇用する従業員が5人以上になった場合、法律により社会保険への加入が義務付けられます。これは「強制適用事業所」に該当するため、美容国保に加入していても、社会保険への切り替え手続きが必須となります。加入義務を怠ると、遡って保険料を徴収されるなどのペナルティが発生する可能性があるため、速やかに手続きを行いましょう。

3.3 法人化した美容室の場合

個人事業主から法人成りした場合、または最初から株式会社や合同会社として美容室を設立した場合は、従業員の人数に関わらず社会保険への加入が義務となります。たとえ社長1人の会社であっても、加入は必須です。

法人における社会保険は、健康保険と厚生年金のセットになります。保険料は会社と個人で半分ずつ負担(労使折半)するため、役員報酬から天引きされる金額は全額自己負担ではありません。厚生年金に加入することで、国民年金のみの場合に比べて将来受け取れる年金額が手厚くなるという大きなメリットがあります。

また、傷病手当金や出産手当金といった保障も受けられるため、万が一の際にも安心です。社会保険に加入していることは企業の信頼性向上にも繋がり、金融機関からの融資や人材採用の面でも有利に働くでしょう。

4. 美容国保から社会保険への切り替え手続きと注意点

美容室の法人化や、個人事業主でも常時雇用する従業員が5名以上になった場合、社会保険への加入が義務付けられます。美容国保から社会保険への切り替えは、手続きが複数あり、それぞれに期限が設けられています。スムーズな移行のために、流れと注意点をしっかり把握しておきましょう。

4.1 社会保険の加入手続きの流れ

社会保険の加入手続きは、主に「年金事務所」と「労働基準監督署・ハローワーク」で行います。提出書類や期限が定められているため、計画的に準備を進めることが重要です。

まず、事業所を管轄する年金事務所へ「健康保険・厚生年金保険 新規適用届」を提出します。このとき、法人であれば登記簿謄本、個人事業主であれば事業主の世帯全員の住民票などが必要です。同時に、経営者や従業員一人ひとりの「被保険者資格取得届」も提出します。従業員に扶養家族がいる場合は、「健康保険 被扶養者(異動)届」も忘れずに提出しましょう。これらの手続きは、原則として加入義務が発生した日から5日以内に行う必要があります。

また、従業員を一人でも雇用する場合は労働保険(労災保険・雇用保険)への加入も必要です。まず労働基準監督署へ「労働保険関係成立届」を提出し、その後ハローワークで「雇用保険適用事業所設置届」と従業員分の「雇用保険被保険者資格取得届」を提出します。

4.2 美容国保の脱退手続きを忘れずに

社会保険の加入手続きが完了し、新しい健康保険証が手元に届いたら、必ず美容国保の脱退手続きを行いましょう。この手続きを怠ると、美容国保と社会保険の両方に加入している状態(二重加入)となり、保険料の二重払いが発生してしまうため、絶対に忘れてはいけません。

脱退手続きは、所属している美容業の組合など、美容国保の窓口で行います。手続きの際には、新しく交付された社会保険の保険証(コピーを求められることが多い)と、これまで使用していた美容国保の保険証(原本の返却が必要)を持参します。資格喪失日を正確に伝え、確実に脱退手続きを完了させましょう。

5. まとめ

美容室経営における保険選びでは、美容国保と社会保険のメリット・デメリットを正しく理解することが不可欠です。美容国保は収入に関わらず保険料が一定という利点がありますが、社会保険は傷病手当金や出産手当金といった保障が手厚い点が大きな魅力です。個人事業主で従業員が4名以下の場合は美容国保も選択肢となりますが、法人や常時5名以上の従業員を雇用する事業所は社会保険への加入が法律で義務付けられています。ご自身の経営状況や従業員の福利厚生、将来設計を考慮し、最適な保険制度を選択しましょう。

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この記事を書いた人

美容室のミカタのアバター 美容室のミカタ 美容室の支援実績が豊富な税理士・社労士・弁護士

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