【図解でわかる】美容室の損益分岐点分析|計算方法から利益を出す改善策まで徹底解説

「売上はあるのに利益が手元に残らない…」そんな悩みを抱える美容室経営者の方へ。この記事では、安定経営の羅針盤となる「損益分岐点分析」について、計算方法から利益を出すための改善策までを徹底解説します。図解やモデルケースを交え、あなたの店の損益分岐点を算出し、コスト削減や売上向上への具体的な道筋を明らかにします。感覚的な経営から脱却し、データに基づいた利益体質のサロンを実現しましょう。

目次

1. なぜ美容室経営に損益分岐点分析が重要なのか

美容室の経営において、日々の売上や客数に一喜一憂するだけでなく、数字に基づいた客観的な経営判断は不可欠です。その強力なツールとなるのが「損益分岐点分析」です。なぜ、この分析がサロン経営を成功に導く鍵となるのでしょうか。ここでは、その重要性を2つの側面から解説します。

1.1 安定経営の羅針盤となる損益分岐点

損益分岐点とは、売上と費用がちょうど同じになり、利益がゼロになる売上高のことです。言い換えれば、「最低限これだけは売り上げなければ赤字になってしまう」というボーダーラインを示します。このラインを正確に把握することで、どんぶり勘定に陥りがちな経営から脱却し、明確な指標を持つことができます。

日々の営業で「今月は大丈夫だろうか」といった漠然とした不安を抱える経営者は少なくありません。しかし、損益分岐点という明確な基準があれば、現在の経営状況が安全圏にあるのか、あるいは危険水域なのかを客観的に判断できます。それはまるで、航海における羅針盤のように、サロンが進むべき方向と現在地を教えてくれる、安定経営に欠かせない存在なのです。

1.2 目標設定と具体的なアクションプランの策定に役立つ

損益分岐点分析は、現状把握だけでなく、未来の目標設定にも絶大な効果を発揮します。「来月は利益を30万円出したい」と考えたとき、そのために必要な売上高はいくらなのかを具体的に算出できます。これにより、「とにかく頑張る」といった曖昧な目標ではなく、「目標利益30万円を達成するために、売上〇〇円を目指す」という、数字に裏付けされた現実的な目標を設定できるようになります。

さらに、目標売上高が明確になれば、「客単価をあと500円上げる」「新規顧客を月に10人増やす」「店販比率を5%上げる」といった、より具体的なアクションプランにまで落とし込むことが可能です。スタッフとも目標数値を共有しやすくなり、サロン全体のモチベーション向上にも繋がるでしょう。損益分岐点分析は、夢や目標を具体的な計画に変えるための、極めて実践的なツールなのです。

2. 損益分岐点分析の基本を理解しよう

美容室の経営状態を正しく把握し、改善策を立てるためには、まず損益分岐点分析の基本的な考え方を理解することが不可欠です。ここでは、分析の土台となる「損益分岐点」「固定費」「変動費」「限界利益」という4つの重要なキーワードについて、わかりやすく解説します。

2.1 損益分岐点とは利益がゼロになる売上高のこと

損益分岐点とは、文字通り損益が分岐する点、つまり利益がプラスマイナスゼロになる状態を指します。具体的には、美容室の「売上高」と「総費用(コスト)」がちょうど同じ金額になる売上高のことです。「損益分岐点売上高」とも呼ばれます。

この損益分岐点を下回る売上しか達成できなければ赤字となり、逆に上回ることができれば黒字となって利益が生まれます。つまり、損益分岐点は自店の経営が赤字か黒字かを判断する「分かれ道」であり、最低限達成しなければならない売上目標を示す重要な指標なのです。

2.2 美容室の費用は固定費と変動費の2種類に分けられる

損益分岐点を正確に計算するためには、まず美容室で発生するすべての費用(コスト)を「固定費」と「変動費」の2種類に正しく分類する必要があります。この分類が、経営状況を可視化する第一歩となります。

2.2.1 固定費とは売上に関わらず発生する費用

固定費とは、お客様の数や売上高の増減に関わらず、毎月ほぼ一定額が発生する費用のことです。例えば、お客様が一人も来店しなかったとしても支払わなければならない家賃や、スタッフの固定給などがこれに該当します。固定費は経営の安定を左右する土台となるコストであり、この金額が大きいほど損益分岐点は高くなる傾向にあります。

2.2.2 変動費とは売上に比例して増減する費用

変動費とは、売上高の増減に比例して変動する費用のことです。お客様が増えれば増え、減れば減るコストと考えると分かりやすいでしょう。例えば、施術に使用するカラー剤やシャンプーなどの薬剤費、販売用の店販商品の仕入れ原価、クレジットカードの決済手数料などが代表例です。売上に直接連動するため、売上計画を立てる上で非常に重要な要素となります。

2.3 利益の源泉となる限界利益と限界利益率

限界利益とは、売上高から変動費を差し引いて算出される利益のことです。この限界利益が、家賃や人件費といった固定費を支払い、最終的な利益(営業利益)を生み出すための源泉となります。

計算式:限界利益 = 売上高 – 変動費

また、売上高に対して限界利益がどれくらいの割合を占めるかを示す指標が「限界利益率」です。この率が高いほど、1つの売上から得られる儲けが大きく、効率的に利益を出せる収益性の高い経営体質であると言えます。損益分岐点を計算する上で欠かせない、非常に重要な数値です。

計算式:限界利益率(%) = 限界利益 ÷ 売上高 × 100

3. 【3ステップで簡単】美容室の損益分岐点の計算方法

損益分岐点の計算は、一見難しそうに聞こえるかもしれませんが、実は3つの簡単なステップで誰でも算出できます。経営状態を正確に把握するために、まずは自店の数字と向き合うことから始めましょう。ここでは、その具体的な手順を分かりやすく解説します。

3.1 ステップ1 美容室の固定費と変動費を把握する

最初のステップは、毎月の経費を「固定費」と「変動費」の2つに正確に分類することです。この費用の仕分けが、損益分岐点分析の精度を左右する最も重要な作業となります。お手元の確定申告書や会計ソフトのデータを見ながら、一つひとつの勘定科目がどちらに該当するかを確認していきましょう。

3.1.1 美容室における固定費の具体例

固定費とは、お客様の数や売上高に関わらず、毎月一定額が発生する費用です。サロンを運営する上で必要不可欠なコストと考えると分かりやすいでしょう。主な固定費には以下のようなものがあります。

  • 人件費:正社員やアシスタントの基本給、社会保険料など
  • 地代家賃:店舗の家賃、駐車場代
  • リース料:美容器具、レジ、複合機などのリース料金
  • 減価償却費:内装設備や高額な美容器具の購入費用を耐用年数で割ったもの
  • 広告宣伝費:月額固定のポータルサイト掲載料、Webサイトのサーバー代やドメイン代
  • その他:通信費(電話・インターネット)、水道光熱費の基本料金、会計ソフト利用料、税理士顧問料など

3.1.2 美容室における変動費の具体例

変動費とは、売上の増減に比例して変動する費用です。お客様が増え、施術や商品販売が増えるほど、この費用も増加します。美容室における代表的な変動費は以下の通りです。

    • 材料費:カラー剤、パーマ液、シャンプー、トリートメントなどの薬剤費

* 販売商品の仕入原価:店内で販売するヘアケア商品などの仕入れ費用

  • 人件費(一部):スタイリストの歩合給、業務委託スタッフへの報酬
  • 水道光熱費(従量部分):売上に比例して増える電気代やガス代、水道代の使用量部分
  • 販売促進費:売上に応じて支払うポータルサイトの成果報酬、クレジットカード決済手数料

3.2 ステップ2 限界利益と限界利益率を計算する

固定費と変動費を把握できたら、次に「限界利益」と「限界利益率」を計算します。限界利益とは、売上高から変動費を差し引いた金額のことで、これが固定費をカバーし、最終的な利益を生み出す源泉となります。

計算式は以下の通りです。

限界利益 = 売上高 – 変動費

限界利益率 (%) = 限界利益 ÷ 売上高 × 100

例えば、月の売上高が100万円、変動費が20万円だった場合、限界利益は80万円、限界利益率は80%となります。この限界利益率が高いほど、売上が増えたときに利益が出やすい「儲かる体質」であると言えます。

3.3 ステップ3 損益分岐点売上高を算出する

いよいよ最後のステップです。ステップ1で算出した固定費と、ステップ2で算出した限界利益率を使って、損益分岐点売上高を求めます。損益分岐点売上高とは、利益がプラスマイナスゼロになる売上高のことです。

計算式はこちらです。

損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率

例えば、月の固定費が60万円、限界利益率が80%の美容室の場合、損益分岐点売上高は「60万円 ÷ 0.8 = 75万円」となります。つまり、この美容室は毎月75万円の売上を達成すれば赤字を回避でき、それを超えた分が利益になるということが明確にわかります。この数値を把握することが、安定経営に向けた第一歩です。

4. 【モデルケースで解説】美容室の損益分岐点シミュレーション

ここでは、具体的な数字を使って美容室の損益分岐点をシミュレーションしてみましょう。理論だけでなく、実際の数値に当てはめてみることで、自店の経営状況をより深く理解できます。今回は「一人経営の美容室」をモデルケースとして解説します。

4.1 一人経営美容室の損益分岐点分析例

まずは、個人で経営している小規模な美容室を例に、損益分岐点売上高を計算してみます。自店の数字を当てはめながら、一緒に計算してみてください。

【モデルケースの条件】

  • 経営形態:スタイリスト1名による一人経営
  • 立地:郊外の駅徒歩5分
  • 席数:2席
  • 月間売上高:800,000円

【費用の内訳】

固定費(合計:560,000円/月)

  • 家賃:150,000円
  • オーナー役員報酬:300,000円
  • 広告宣伝費(ポータルサイト掲載料など):50,000円
  • リース料(美容器具):30,000円
  • 通信費・システム利用料:20,000円
  • 水道光熱費(基本料金):10,000円

変動費(合計:124,000円/月)

  • 薬剤・材料費:80,000円(売上に対し10%)
  • 販売手数料(カード決済など):24,000円(売上に対し3%)
  • 水道光熱費(使用量分):20,000円(売上に対し2.5%)

【計算手順】

1. 変動費率を算出する
変動費率 = 変動費 ÷ 売上高
124,000円 ÷ 800,000円 = 0.155(15.5%)

2. 限界利益率を算出する
限界利益率 = 1 – 変動費率
1 – 0.155 = 0.845(84.5%)

3. 損益分岐点売上高を算出する
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ 限界利益率
560,000円 ÷ 0.845 ≒ 662,722円

このシミュレーションの結果、この一人経営美容室の損益分岐点売上高は「約66.3万円」であることがわかりました。つまり、毎月66.3万円以上の売上を確保できれば黒字、下回ると赤字になるという経営のボーダーラインが明確になります。現在の月商80万円は、このラインを上回っており、健全な経営状態であると判断できます。

4.2 目標利益を達成するための必要売上高の求め方

損益分岐点はあくまで利益がゼロの地点です。経営を安定させ、事業を成長させるためには、利益を出すことが不可欠です。次に、目標とする利益額を達成するためには、いくらの売上が必要なのかを計算する方法を解説します。

この計算には「目標利益達成売上高」の公式を使います。

【公式】目標利益達成売上高 = (固定費 + 目標利益) ÷ 限界利益率

先ほどの一人経営美容室のモデルケースで、「毎月20万円の利益(税引前)を確保したい」という目標を立てたとします。この場合に必要な売上高はいくらになるでしょうか。

【計算例】

  • 固定費:560,000円
  • 目標利益:200,000円
  • 限界利益率:0.845(84.5%)

(560,000円 + 200,000円) ÷ 0.845 = 760,000円 ÷ 0.845 ≒ 899,408円

計算の結果、毎月20万円の利益を出すためには「約90万円」の売上が必要だということがわかります。現在の売上高が80万円なので、あと10万円の売上を上乗せするための具体的な施策が必要である、というネクストアクションが見えてきます。

このように、損益分岐点分析は現状把握だけでなく、未来の目標設定と、その達成に向けた具体的な計画立案に直結する非常に強力なツールなのです。

5. 美容室の損益分岐点に関する平均と目標の目安

自店の損益分岐点を算出したら、次はその数値が業界水準と比べてどうなのか、どのくらいの売上を目指すべきなのかを知りたくなりますよね。ここでは、美容室経営における費用の平均的な構造と、事業規模に応じた目標設定の目安について解説します。自店の経営状況を客観的に把握し、現実的な目標を立てるための羅針盤としてご活用ください。

5.1 美容室の平均的な費用構造と利益率

美容室の経営状態を健全に保つためには、売上高に対して各費用がどのくらいの割合を占めているか(費用構造)を把握することが不可欠です。一般的な美容室の費用構造と利益率の目安は以下の通りです。

【売上高を100%とした場合の費用構造の目安】

  • 材料費(変動費): 8%~12%
    シャンプーやカラー剤、パーマ液などの薬剤費です。メニュー構成や使用するブランドによって変動しますが、10%前後が一つの基準となります。
  • 人件費(固定費): 40%~50%
    スタッフの給与や社会保険料など、最も大きな割合を占めるコストです。オーナー1人経営の場合はこの限りではありませんが、スタッフを雇用する場合は売上の半分近くが人件費となるケースも少なくありません。
  • 家賃(固定費): 8%~12%
    店舗の賃料です。立地によって大きく左右されますが、売上の10%以内に収めるのが理想とされています。
  • 広告宣伝費(固定費): 5%~10%
    集客サイトへの掲載料やチラシ作成、Web広告などにかかる費用です。新規集客に力を入れる時期は高くなる傾向があります。
  • その他経費(固定費・変動費): 5%~10%
    水道光熱費、通信費、消耗品費、リース料などが含まれます。

これらの費用を差し引いたものが利益となります。美容室の営業利益率は一般的に5%~10%程度と言われています。もし、自店の費用がこれらの目安を大幅に超えている場合は、何らかの改善が必要なサインかもしれません。ただし、これはあくまで平均的な数値であり、サロンのコンセプトや立地、規模によって最適なバランスは異なります。

5.2 席数やスタッフ数から考える目標売上高

損益分岐点を超える利益を確保するためには、具体的な売上目標の設定が欠かせません。美容室の目標売上高は、「スタイリスト一人当たり」や「セット面(席)一つ当たり」の生産性を基準に考えると、現実的な数値を導き出しやすくなります。

【生産性から考える月間目標売上高の目安】

  • スタイリスト一人当たりの目標売上高: 80万円~100万円
    多くの美容室で、スタイリスト一人当たりの生産性目標として設定されることが多い金額です。人気スタイリストや店長クラスであれば、120万円~150万円以上を目指すこともあります。例えば、スタイリストが3名在籍している場合、店舗全体の目標月商は「3名 × 80万円 = 240万円」のように計算できます。
  • セット面一つ当たりの目標売上高: 30万円~50万円
    店舗の設備(資産)がどれだけの売上を生み出しているかを示す指標です。稼働率によって変動しますが、この数値を基準に目標を設定することも有効です。例えば、セット面が4席ある場合、目標月商は「4席 × 40万円 = 160万円」といった形で算出します。

まずは自店の損益分岐点売上高を算出し、それを確実に上回るラインとして、これらの生産性に基づいた目標売上高を設定しましょう。目標が明確になることで、日々の営業活動における課題や達成すべきタスクが具体的に見えてきます。

6. 利益を出すための損益分岐点を下げる具体的な改善策

損益分岐点分析で自店の現状を把握したら、次はいよいよ利益体質のサロンへと変えていくための行動です。損益分岐点を下げる(=より少ない売上高で利益が出る状態にする)には、大きく分けて「固定費の削減」「変動費率の低減」「売上の向上」という3つのアプローチがあります。ここでは、それぞれの具体的な改善策を徹底解説します。

6.1 固定費を削減するためのアイデア

固定費は、お客様が一人も来なくても毎月発生するコストです。この固定費を削減できれば、その分がまるごと利益改善に直結するため、効果は絶大です。継続的に発生する費用だからこそ、一度の見直しが長期的な経営安定につながります。

6.1.1 家賃やリース料など固定費の見直し

美容室の固定費の中で最も大きな割合を占めるのが家賃です。契約更新のタイミングや、周辺の家賃相場が下がっている時期を見計らって、オーナー様へ家賃交渉を試みる価値は十分にあります。また、美容器具やIT機器などのリース契約も定期的な見直しが必要です。契約期間満了時に、より有利な条件のリース会社に乗り換えたり、中古品を購入したりすることで、月々の支払いを抑えることができます。

6.1.2 人件費の最適化と生産性向上

人件費は単に「削る」のではなく、「最適化」するという視点が重要です。例えば、予約管理システムを導入して電話対応や受付業務を自動化したり、スタッフの技術研修に投資して一人あたりの生産性を高めたりすることが有効です。無駄な残業時間をなくし、スタッフが効率的に働ける環境を整えることで、人件費を抑制しながらサービスの質を維持・向上させることが可能になります。

6.1.3 広告宣伝費の費用対効果を分析する

新規顧客獲得のために広告宣伝費は必要ですが、効果の出ていない広告に費用をかけ続けるのは避けなければなりません。ホットペッパービューティーなどの集客サイトやSNS広告、チラシなど、出稿している広告一つひとつの費用対効果(CPA:顧客獲得単価)を必ず分析しましょう。効果の薄い広告は停止または予算を減らし、費用対効果の高い施策や、リピーター向けの販促に予算を再配分することで、より効率的な集客が実現します。

6.2 変動費率を下げるためのアプローチ

変動費は売上に比例して増減する費用です。そのため、金額そのものを減らすことよりも「売上に対する比率(変動費率)」を下げることが重要になります。変動費率を低減できれば、売上が増えたときに利益がしっかりと手元に残る、儲かりやすい体質へと変わることができます。

6.2.1 薬剤費や材料費の仕入れを見直す

カラー剤やパーマ剤、シャンプー・トリートメントなどの薬剤・材料費は、変動費の主要項目です。まずは、現在の仕入れ価格が適正か、複数のディーラーから相見積もりを取って比較検討しましょう。また、使用量の多い薬剤については、大容量のものを一括で購入することで単価を抑える交渉も有効です。日々の業務では、薬剤の正確な計量を徹底し、無駄な使用をなくす在庫管理も利益改善に直結します。

6.2.2 水道光熱費の節約を徹底する

水道光熱費も、日々の積み重ねで大きな差がつくコストです。節水効果の高いシャワーヘッドに交換する、サロン内の照明をすべてLEDに変える、といった設備投資は、長期的に見れば必ず元が取れます。また、営業中のこまめな消灯や空調の適切な温度管理、待機電力のカットなど、スタッフ全員で節約意識を共有することが大切です。電力会社やガス会社のプランを見直すことも、手軽に始められるコスト削減策の一つです。

6.3 売上を向上させるための戦略

損益分岐点は「固定費 ÷ 限界利益率」で算出されます。つまり、コスト削減だけでなく、売上を伸ばして限界利益(額)を増やすことでも、結果的に損益分岐点を引き下げることができます。守り(コスト削減)と攻め(売上向上)の両輪で、利益最大化を目指しましょう。

6.3.1 客単価を上げるメニュー構成と提案力

客単価の向上は、売上アップのための最も直接的な方法です。カットやカラーといった基本メニューに加えて、髪質改善トリートメントやヘッドスパ、デザインカラーといった高単価・高付加価値メニューを導入しましょう。重要なのは、お客様一人ひとりの髪の悩みや「なりたい姿」を丁寧にカウンセリングし、最適なメニューを提案する力です。お客様の満足度が高まれば、自然と客単価も向上していきます。また、店販品の販売も客単価アップに大きく貢献します。

6.3.2 リピート率を高め来店サイクルを短縮する

美容室経営の安定は、リピーターのお客様に支えられています。「またこのサロンに来たい」と思っていただける高い技術力と心地よい接客を追求するのはもちろんのこと、再来店を促す仕組み作りも不可欠です。お帰りの際に次回の予約を提案したり、LINE公式アカウントやDMでメンテナンス時期をお知らせしたりすることで、来店サイクルを短縮し、年間の来店回数を増やす努力をしましょう。

6.3.3 新規顧客を獲得するマーケティング手法

安定したリピーター基盤を築きつつ、新たな顧客を獲得し続けることがサロンの成長につながります。ターゲットとする顧客層に合わせて、InstagramやTikTokなどでヘアスタイルやサロンの魅力を発信するSNSマーケティングは必須です。また、Googleビジネスプロフィール(MEO対策)を充実させて「地域名+美容室」での検索上位表示を目指すことも重要です。お客様からの良い口コミを増やし、紹介キャンペーンを実施するなど、オンラインとオフラインの両面から集客戦略を展開していきましょう。

7. 損益分岐点分析を行う上での注意点

損益分岐点分析は、美容室経営の健全性を測る強力なツールですが、その精度と効果を最大限に引き出すためには、いくつかの注意点を押さえておく必要があります。ここでは、分析を行う上で特に重要な2つのポイントを解説します。

7.1 費用の分類は実態に合わせて慎重に行う

損益分岐点分析の正確性は、費用を固定費と変動費にどれだけ正しく分類できるかにかかっています。しかし、実際の経営では明確に分けられない費用も存在します。

例えば、水道光熱費は基本料金部分が固定費、使用量に応じて変動する部分が変動費という「準変動費」の性質を持ちます。また、スタイリストの給与も固定給部分は固定費、歩合給部分は変動費と考えるのが妥当です。

会計上の厳密なルールに固執するよりも、自店の経営実態に即して、一貫した基準で分類することが最も重要です。どの勘定科目をどちらに含めるか、最初にルールを明確に決めましょう。判断に迷う場合は、顧問税理士などの専門家に相談するのも有効な手段です。

7.2 分析結果は定期的に見直し改善を続ける

損益分岐点分析は、一度計算して終わりではありません。市場環境や自店の状況は常に変化するため、分析結果は定期的に見直し、経営改善に活かし続ける必要があります。

材料費の高騰、最低賃金の改定、家賃の更新、新しい販促活動の開始など、損益分岐点を変動させる要因は数多くあります。最低でも月次、できれば詳細な分析を四半期ごとに行い、経営状況の変化をタイムリーに把握しましょう。

そして最も大切なのは、分析結果から課題を抽出し、具体的な改善アクションプランを実行することです。「分析→計画→実行→検証」というPDCAサイクルを回し続けることで、損益分岐点分析は初めて経営を強くする羅針盤として機能します。

8. まとめ

本記事では、美容室経営における損益分岐点分析の重要性から、具体的な計算方法、利益を出すための改善策までを解説しました。損益分岐点を把握することは、自店の経営状態を可視化し、安定経営を実現するための第一歩です。固定費や変動費を見直し、売上向上策を実践することで、利益体質の強いサロンへと変革できます。この記事を参考に、ぜひ自店の損益分岐点分析に挑戦し、具体的な経営改善プランの策定にお役立てください。

お問い合わせ

\LINEでカンタン/
  • 長岡税理士事務所のスタッフが対応します
\電話で問い合わせる/
  • 受付時間:平日 9:00 〜 18:00
  • 長岡税理士事務所にて電話受付いたします
\メールで問い合わせる/
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

美容室のミカタのアバター 美容室のミカタ 美容室の支援実績が豊富な税理士・社労士・弁護士

美容室経営に深く関わる専門家が集い、「専門家を探す手間」「何度も同じ説明をするストレス」「誰に相談すべきかわからない不安」をすべて解消する「美容室のミカタ」。
お金、人、法律に関する悩みのほとんどは、私たちにご相談いただければ、チームの誰かが必ず解決できます。
美容業界を深く理解した私たちが、あなたの悩みに多角的な視点から最適な答えを導き出します。

目次