【美容師必見】もしも急なケガをしたら?業務委託と正社員の労災・休業補償を解説

ハサミでの切り傷や薬剤による火傷など、美容師の仕事には急なケガがつきものです。もし働けなくなったら、と不安に感じていませんか?本記事では、正社員と業務委託という働き方の違いで、労災保険や休業補償がどう変わるかを具体的に解説します。結論として、正社員は手厚い労災で守られますが、業務委託は原則適用外のため自己防衛が必須です。万が一の時の対応フローから、今すぐできる備えまで、安心して働き続けるための知識が全て分かります。

目次

1. 美容師に多い仕事中の急なケガの事例

華やかなイメージのある美容師ですが、その仕事内容は立ち仕事が中心で、ハサミなどの刃物や高温の器具、化学薬品を扱うため、常にケガのリスクと隣り合わせです。ここでは、多くの美容師が経験する可能性のある、仕事中の急なケガの代表的な事例をご紹介します。自分にも起こりうることとして、ぜひ参考にしてください。

1.1 ハサミやカミソリによる切り傷・刺し傷

美容師の仕事で最も多いケガの一つが、シザーやレザーといった刃物によるものです。お客様の施術に集中するあまり、自分の指を切ってしまうケースは後を絶ちません。また、カット中に誤ってハサミを落とし、足に刺さってしまうといった事故も考えられます。傷が深い場合は縫合が必要になり、しばらく施術に入れなくなる可能性もある危険なケガです。

1.2 薬剤やヘアアイロンによる火傷(やけど)

カラー剤やパーマ液などの化学薬品が手や腕に付着し、化学熱傷(やけど)を引き起こすことがあります。特にアシスタントの方は、シャンプー業務などで薬剤に触れる機会が多く、注意が必要です。また、高温のヘアアイロンやコテが手や腕に触れてしまう事故も頻繁に発生します。一瞬の不注意が、水ぶくれや痕の残る火傷につながる恐れがあります。

1.3 濡れた床での転倒による打撲や骨折

サロン内、特にシャンプー台の周りなど、水で濡れた床で足を滑らせて転倒するケースも少なくありません。単なる打撲で済めば幸いですが、打ちどころが悪ければ捻挫や骨折といった大ケガにつながることも。忙しく店内を動き回っている時ほど、足元への注意が散漫になりがちです。

1.4 無理な姿勢によるぎっくり腰

長時間の立ち仕事や、中腰でのシャンプー、重い薬剤の在庫整理など、美容師の業務は腰に大きな負担をかけます。慢性的な腰痛に悩む方も多いですが、ある日突然、ふとした瞬間に激痛が走り、動けなくなってしまう「ぎっくり腰」を発症するリスクもあります。一度発症するとクセになりやすく、仕事への影響も大きいケガと言えるでしょう。

2. 結論 業務委託と正社員でケガの補償は全く異なる

同じサロンでお客様の髪を切り、同じ薬剤を使っていても、あなたの働き方が「正社員」か「業務委託」かによって、仕事中に急なケガをした際の補償内容は天と地ほどの差があります。この違いを知らないまま働き続けることは、美容師としてのキャリアを揺るがしかねない大きなリスクを抱えているのと同じです。

なぜなら、正社員は労働基準法で定められた「労働者」として、国の制度である労災保険によって手厚く保護されるからです。一方で、業務委託契約の美容師は「個人事業主」という扱いになり、原則として労災保険の適用対象外となります。つまり、ケガの治療費や、働けなくなった期間の収入は、基本的にすべて自己責任で賄わなければならないのです。

例えば、シャンプー台で滑って骨折してしまった場合を考えてみましょう。正社員であれば治療費の心配なく療養に専念でき、休業中の生活費もある程度補償されます。しかし、業務委託の場合は、治療費が全額自己負担になるだけでなく、休んだ分だけ収入がゼロになるという厳しい現実に直面する可能性があります。

この記事では、まずこの決定的な違いを明確にした上で、それぞれの働き方における具体的な補償内容と、特に業務委託の美容師さんが万が一に備えるべき自己防衛策について、詳しく解説していきます。ご自身の身を守るためにも、まずはこの大きな違いをしっかりと理解しておきましょう。

3. 【正社員の美容師】急なケガは労災保険で手厚く補償される

正社員やパート・アルバイトとしてサロンに雇用されている美容師は「労働者」にあたるため、仕事中や通勤中にケガをした場合、労働者災害補償保険(労災保険)の対象となります。これは、個人で備えなければならない業務委託の美容師との最も大きな違いです。ここでは、正社員美容師が利用できる労災保険の手厚い補償内容について詳しく解説します。

3.1 労災保険とは 業務や通勤が原因のケガを補償する制度

労災保険とは、労働者が業務上の理由(業務災害)や通勤中のアクシデント(通勤災害)によってケガをしたり、病気になったり、あるいは死亡した場合に、国が事業主に代わって給付を行う公的な保険制度です。保険料は全額事業主が負担しており、労働者の負担はありません。美容師の場合、以下のようなケースが対象となり得ます。

  • 業務災害の例:シャンプー台の床で滑って転倒し骨折した、ハサミで指を深く切ってしまった、カラー剤が目に入り負傷した
  • 通勤災害の例:自宅からサロンへ向かう途中で自転車で転倒した、最寄り駅からサロンへ歩いている際にビルの看板が落下してきてケガをした

3.2 治療費が補償される療養補償給付

業務や通勤が原因のケガで治療が必要になった場合、「療養(補償)給付」を受けることができます。これは、ケガの治療にかかる費用を補償する制度です。

労災保険指定医療機関で治療を受ければ、窓口での支払いは発生せず、無料で治療を受けることができます。診察費、薬剤費、手術費、入院費など、治療に必要な費用がすべて給付の対象です。もし、近くに指定医療機関がなく、やむを得ずそれ以外の病院で治療を受けた場合でも、一度治療費を立て替えた後で請求手続きを行えば、かかった費用全額が払い戻されます。

3.3 休業中の生活を支える休業補償給付

ケガの治療のために仕事を休まなければならず、サロンから給与が支払われない場合には、「休業(補償)給付」が支給されます。これは、休業中の所得を補償し、安心して療養に専念するための制度です。

休業(補償)給付は、以下の3つの条件をすべて満たした場合に支給されます。

  1. 業務上の事由または通勤による負傷や疾病による療養のため
  2. 労働することができない状態であること
  3. 賃金を受けていないこと

支給額は、仕事を休んだ4日目から、休業1日につき給付基礎日額の約8割(休業補償給付60%+休業特別支給金20%)です。これにより、治療に専念している間の生活費の不安を大幅に軽減することができます。

3.4 労災保険の申請手続きと流れ

労災保険の申請は、被災した美容師本人またはその家族が行いますが、多くの場合はサロン(会社)が手続きをサポートしてくれます。いざという時のために、大まかな流れを把握しておきましょう。

  1. サロン(会社)へ報告する
    まずは、いつ、どこで、どのようにケガをしたのかを速やかに職場へ報告します。労災保険の手続きを進める上で最初の重要なステップです。
  2. 労災保険指定医療機関を受診する
    病院へ行く際は、労災によるケガであることを伝えましょう。労災保険指定医療機関を受診すると、治療費を立て替える必要がなくスムーズです。
  3. 申請書類を準備・提出する
    所定の請求書様式(受診する病院の種類によって異なります)を準備し、必要事項を記入します。事業主の証明印をもらった上で、書類を病院の窓口へ提出、もしくは労働基準監督署へ直接提出します。
  4. 労働基準監督署による調査・認定
    提出された書類に基づき、労働基準監督署が業務または通勤との因果関係を調査し、労災認定を行うかどうかを決定します。
  5. 給付金の支給開始
    無事に労災として認定されると、治療費の給付や休業補償給付の支給が開始されます。

手続きが複雑に感じるかもしれませんが、基本的にはサロンの担当者が手続きを主導してくれるため、まずはケガの状況を正確に報告し、指示に従うことが大切です。

4. 【業務委託の美容師】急なケガに備える3つの自己防衛策

業務委託契約で働く美容師は、正社員とは異なり個人事業主として扱われます。そのため、急なケガや病気で働けなくなった場合、会社のセーフティネットに頼ることはできません。自分の身は自分で守るという意識を持ち、万が一の事態に備えて事前に対策を講じておくことが極めて重要です。ここでは、業務委託美容師が取るべき3つの自己防衛策を具体的に解説します。

4.1 原則として労災保険は適用されない

まず理解しておくべき最も重要な点は、業務委託契約の美容師は、原則として労災保険の対象外であるということです。労災保険は、会社に雇用される「労働者」を保護するための制度です。個人事業主である業務委託美容師は、この「労働者」に該当しないため、仕事中にハサミで指を切ったり、薬剤で化学熱傷を負ったりしても、労災保険からの治療費や休業補償は一切受けられません。つまり、治療費は全額自己負担となり、休業中の収入はゼロになってしまうリスクがあるのです。

4.2 対策1 労災保険の特別加入制度を利用する

原則適用外の労災保険ですが、「特別加入制度」という例外的な仕組みを利用することで、業務委託美容師も加入できる道があります。これは、労働者ではないものの、業務の実態が労働者に近く、保護の必要性が高いと認められる一人親方などを対象とした制度です。

この制度に加入すれば、業務中や通勤中のケガに対して、正社員とほぼ同等の補償(治療費の給付や休業補償など)を受けることができます。加入手続きは、お住まいの地域の労働保険事務組合などを通じて行います。ただし、保険料は全額自己負担となるため、コストはかかりますが、万が一のリスクを考えると非常に有効な選択肢と言えるでしょう。

4.3 対策2 民間の所得補償保険や傷害保険に加入する

労災保険の特別加入と合わせて検討したいのが、民間の保険商品です。特に業務委託美容師にとって重要なのが「所得補償保険(就業不能保険)」と「傷害保険」です。

所得補償保険は、ケガや病気で長期間働けなくなった場合に、毎月一定額の給付金を受け取れる保険です。収入が途絶えてしまうリスクを直接的にカバーできるため、フリーランス美容師の生活を守る上で強力な支えとなります。

一方、傷害保険は、ケガによる入院や通院、手術などに対して給付金が支払われる保険です。業務中だけでなく、日常生活での突発的なケガも補償の対象となる商品が多く、幅広いリスクに備えることができます。自分のライフスタイルや貯蓄額などを考慮し、必要な補償内容の保険に加入しておくことを強くおすすめします。

4.4 対策3 サロン独自の補償制度を確認する

最後に、契約するサロンが業務委託者向けに独自の補償制度を設けていないかを確認することも重要です。サロンによっては、福利厚生の一環として、業務委託者が加入できる団体保険を用意していたり、ケガをした際に見舞金を支給する制度を設けていたりする場合があります。

こうした制度の有無は、安心して働ける環境かどうかを判断する上で大きなポイントとなります。業務委託契約を結ぶ前に、契約書の内容を細かくチェックし、補償に関する記載がなければ担当者に直接質問しましょう。サロン選びの段階から、万が一の際のサポート体制を確認しておくことが、賢明な自己防衛策となります。

5. 働き方別 美容師が急なケガをした時の対応フローを比較

仕事中に万が一ケガをしてしまった場合、正社員と業務委託では、その後の対応の流れが大きく異なります。いざという時に慌てないよう、ご自身の働き方に合わせた正しい対応フローを理解しておきましょう。

5.1 正社員美容師の場合

正社員の場合、労働者として法律で保護されているため、サロン(会社)と連携しながら手続きを進めるのが基本です。落ち着いて、以下のステップで対応してください。

  1. サロンの責任者にすぐ報告
    まずは、いつ、どこで、どのようにケガをしたのかを直属の上司や店長に正確に報告します。労災保険の申請には会社の証明が必要不可欠なため、この最初の報告が非常に重要です。
  2. 労災指定病院で受診
    病院へ行く際は、会社の指示を仰ぎましょう。可能な限り「労災保険指定医療機関」を選ぶと、窓口での治療費の支払いが不要になり、手続きがスムーズに進みます。受診時には必ず「仕事中のケガである」ことを明確に伝えてください。
  3. 会社に労災申請の手続きを依頼
    労災保険の申請書類の準備や提出は、原則として会社が主体となって進めてくれます。あなたは会社から求められた情報を提供し、必要な書類に署名などを行うことになります。
  4. 医師の指示に従い療養
    ケガの治療に専念します。もし仕事を休む必要がある場合は、治療費とは別に「休業補償給付」の申請も会社を通じて行います。

5.2 業務委託美容師の場合

業務委託契約は個人事業主にあたるため、自分の身は自分で守るという意識が基本となります。ケガをした際は、すべて自己責任で対応を進める必要があります。

  1. 契約先のサロンへ状況を報告
    労災申請のためではありませんが、予約のキャンセルや変更など業務に支障が出るため、契約先のサロン責任者には速やかに状況を報告しましょう。契約内容によっては、サロン独自の傷病見舞金制度などがある可能性もゼロではありません。
  2. 自身の判断で病院を受診
    労災保険が適用されないため、治療費は国民健康保険などを使い、自己負担となります。どの病院に行くかも自分で判断します。労災保険の特別加入制度を利用している場合は、その旨を病院に伝え、所定の手続きを自分で行う必要があります。
  3. 加入している保険会社へ連絡・申請
    労災保険の特別加入制度、民間の所得補償保険や傷害保険などに加入している場合は、自分で保険会社に連絡し、給付金の請求手続きを開始します。申請には医師の診断書などが必要になるため、病院で忘れずにもらっておきましょう。
  4. 収入減への対策と今後の計画
    休業中の公的な収入補償はありません。そのため、貯蓄や保険で生活費を賄う必要があります。回復までの期間を見据え、今後の働き方や資金計画を立て直すことが求められます。

6. 美容師のケガに関するよくある質問

美容師が仕事中にケガをした際の補償について、多くの方が抱く疑問にお答えします。ご自身の状況と照らし合わせながらご確認ください。

6.1 通勤中にケガをした場合はどうなりますか

通勤中のケガは「通勤災害」として扱われ、働き方によって補償内容が大きく異なります。

正社員やパート・アルバイトの場合、合理的な経路および方法での通勤中のケガは、労災保険の給付対象となります。例えば、自宅からサロンへ向かう途中で転倒して骨折した場合などが該当します。寄り道など、通勤経路を逸脱した場合は対象外となることがあるため注意が必要です。

一方、業務委託の美容師は個人事業主であるため、原則として通勤災害という概念がなく、労災保険の対象外となります。移動中のケガはすべて自己責任となるため、民間の傷害保険などで備えておく必要があります。

6.2 慢性的な手荒れや腰痛も補償の対象ですか

シャンプーによる手荒れや、長時間の立ち仕事による腰痛(椎間板ヘルニアなど)といった、美容師特有の慢性的な症状は「業務上疾病」と呼ばれます。

これらの症状が補償の対象となるかは、その症状と業務との間に明確な因果関係があるかが重要な判断基準となります。医師の診断に基づき、労働基準監督署が個別の事案ごとに判断します。急なケガと比べて、業務との関連性を証明する必要があるため、認定のハードルは高くなる傾向にあります。

業務委託の場合は、業務上疾病も労災保険の対象外です。ただし、労災保険の特別加入制度に加入していれば、一定の要件を満たす業務上疾病は補償の対象となる可能性があります。

6.3 労災の申請をサロンがしてくれない場合はどうすればいいですか

万が一、勤務先のサロンが労災保険の申請手続きに協力的でない、いわゆる「労災隠し」のような状況にあったとしても、心配する必要はありません。労災保険の申請は、労働者に与えられた正当な権利です。

サロンの協力が得られない場合でも、労働者本人が直接、管轄の労働基準監督署に必要な書類を提出して申請することが可能です。手続きの進め方や必要書類がわからない場合は、労働基準監督署の窓口で相談すれば、丁寧に教えてもらえます。諦めずにまずは相談してみましょう。

6.4 パートやアルバイトの美容師の補償はどうなりますか

雇用形態に関わらず、サロンに雇用されている労働者であれば、労災保険は強制加入となります。したがって、パートやアルバイトの美容師であっても、正社員と全く同じように労災保険による手厚い補償を受けることができます

労働時間や勤務日数に関係なく、1日だけの単発アルバイトであっても、業務中や通勤中にケガをした場合は労災保険が適用されます。雇用契約を結んでいる場合は、安心して補償を受けられると覚えておきましょう。

7. まとめ

美容師が仕事中に急なケガをした場合、正社員と業務委託という働き方の違いで補償内容は全く異なります。正社員は手厚い労災保険によって治療費や休業中の生活が守られますが、個人事業主である業務委託は原則として適用されません。そのため、業務委託で働く美容師は、労災保険の特別加入制度や民間の所得補償保険などを活用し、自ら万が一に備えることが極めて重要です。ご自身の働き方に合った備えがあるか、この機会にぜひ確認しておきましょう。

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この記事を書いた人

美容室のミカタのアバター 美容室のミカタ 美容室の支援実績が豊富な税理士・社労士・弁護士

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