美容師が独立したら知るべき経費の考え方Vol.4|借入返済は経費になる?利益と現金がズレる理由

美容室を独立開業した後、「売上も利益も出ているはずなのに、なぜか手元にお金が残らない」と悩む美容師は少なくありません。
その大きな理由の一つが、お金が出ていく支出と、確定申告で必要経費になる支出が一致しないことです。
例えば、借入金の元金返済は、通帳からお金が引き落とされても必要経費にはなりません。一方、シャンプー台や内装工事などの高額な設備は、支払った年に全額を必要経費にできない場合がありますが、減価償却によって複数年に分けて経費化します。
また、敷金や保証金のように、支払っても原則として経費にならないものもあります。
この記事では、個人事業主として美容室を独立開業した方を対象に、次のポイントを分かりやすく解説します。
- 借入金の元金返済が経費にならない理由
- 借入金の利息を経費にする場合の注意点
- 敷金、礼金、仲介手数料の違い
- 高額な美容器具と減価償却
- 利益が出ていてもお金が不足する理由
- 資金ショートを防ぐ資金繰り管理
利益と現金の違いを理解し、安定したサロン経営につなげましょう。
※本記事は2026年7月時点の法令・制度を前提としています。法人として美容室を経営する場合や、借入金に私的な用途が含まれる場合などは、取扱いが異なることがあります。
1.「支出」と「必要経費」は同じではない

美容室の経営では、毎月さまざまな支払いが発生します。
- 材料費
- 店舗家賃
- 水道光熱費
- 給与
- 広告費
- 借入金返済
- 税金
- オーナーの生活費
- 設備購入代金
これらはすべて、事業用の口座からお金が出ていく「支出」です。
しかし、支出した金額のすべてが、確定申告でその年の必要経費になるわけではありません。
必要経費になるかどうかは、単にお金を支払ったかではなく、事業との関連性や支出の性質、資産として残るかどうかなどによって判断します。
また、原則として、その年に支払っていなくても、その年に債務が確定していれば必要経費になる場合があります。反対に、先に支払っていても、翌年以降に対応する前払費用などは、支払った年に全額が必要経費になるとは限りません。
サロン経営では、次の3つを分けて考えることが重要です。
- 通帳からお金が出ていくか
- その年の必要経費になるか
- 貸借対照表に資産や負債として残るか
2.借入金の元金返済は必要経費にならない
美容室の開業時には、日本政策金融公庫や銀行、信用金庫などから融資を受けることがあります。
例えば、1,000万円の融資を受けた場合、預金残高は1,000万円増えます。
しかし、この1,000万円は美容室の売上ではありません。将来、金融機関へ返済しなければならない「借入金」という負債です。
そのため、融資を受けたときに利益は増えず、所得税も課されません。
反対に、借入金の元金を返済したときも、その支払いは必要経費にはなりません。
借りたときに売上として課税されていないため、返したときにも経費として利益から差し引くことはできないという関係です。元金返済は、事業上の費用を支払う取引ではなく、借入金という負債を減らす取引です。国税庁も、借入金返済額のうち元本部分は必要経費にならないと案内しています。
2.1 借入金を受け取ったときのイメージ
300万円を借りた場合は、次のように考えます。
| 内容 | 預金 | 借入金 | 利益への影響 |
|---|---|---|---|
| 融資を受ける | 300万円増加 | 300万円増加 | なし |
お金は増えていますが、同額の返済義務も増えているため、利益にはなりません。
2.2 元金を返済したときのイメージ
元金10万円を返済した場合は、次のようになります。
| 内容 | 預金 | 借入金 | 利益への影響 |
|---|---|---|---|
| 元金を返済する | 10万円減少 | 10万円減少 | なし |
預金は減りますが、経費にはならないため、損益計算書上の利益は減りません。
この仕組みが、「利益は出ているのに手元のお金が少ない」という状況を生む原因の一つです。
3.事業用借入金の利息は必要経費になる

借入金の返済額は、通常、次の2つで構成されています。
- 借りた金額を返す「元金」
- 資金を借りる対価として支払う「利息」
このうち、事業のための借入金に対応する利息は、原則として「支払利息」として必要経費になります。国税庁も、業務用資産の購入など、業務のための借入金の利息は必要経費になるとしています。
例えば、毎月の返済額が10万5,000円で、内訳が次のようになっているとします。
- 元金:10万円
- 利息:5,000円
この場合、その月の必要経費になるのは、原則として利息の5,000円です。
元金10万円は借入金の返済として処理し、必要経費にはしません。
3.1 返済予定表を保存する
金融機関から交付される返済予定表には、毎月の返済額が元金と利息に分けて記載されています。
通帳には合計額だけが表示されることが多いため、返済予定表を確認せず、返済額の全額を「支払利息」や「借入金返済」という経費にしないよう注意しましょう。
次の資料は必ず保存しておきます。
- 金銭消費貸借契約書
- 返済予定表
- 融資実行時の明細
- 保証料・手数料の明細
- 通帳やインターネットバンキングの履歴
3.2 私的な用途を含む借入金
借入金の一部を美容室の開業資金に使い、残りを生活費やプライベートな支出に使った場合、利息の全額を必要経費にはできません。
事業に使用した金額と私生活に使用した金額を区分し、事業に対応する利息だけを必要経費として処理します。
「事業用ローン」という名称だけで判断するのではなく、実際に何のために資金を使ったのかを説明できるようにしておく必要があります。
3.3 開業前に支払った利息
開業前に借入金でシャンプー台や内装などの事業用資産を取得した場合、その資産を使用し始めるまでの期間に対応する利息は、資産の取得価額に含める取扱いとなることがあります。
国税庁は、事業開始前に事業用資産を借入金で取得した場合、開業前の期間に対応する利息は、その資産の取得費に含めるとしています。
そのため、開業前に支払った利息を、すべて開業初年度の「支払利息」として処理できるとは限りません。
3.4 保証料や融資手数料は利息と分ける
融資を受ける際には、利息以外にも次のような費用が発生することがあります。
- 信用保証料
- 融資事務手数料
- 契約書の印紙代
- 振込手数料
これらは借入金の元金返済ではありませんが、すべてを「支払利息」にするわけでもありません。
保証期間や契約内容などによって、支払時の必要経費にするものと、複数年に分けて経費化するものがあります。金融機関から受け取った明細を保存し、内容ごとに区分して処理しましょう。
4.お金が出ても、すぐに必要経費にならない支出
美容室経営では、支払いをした年に全額が必要経費にならないものがあります。
代表的なものを確認しておきましょう。
4.1 個人事業主本人の生活費
個人事業主には、自分自身へ支払う「給与」という考え方はありません。
事業用口座から生活費として30万円を引き出しても、その30万円は必要経費にはなりません。
会計上は「事業主貸」などで処理します。
ただし、経費にならなくても、実際には預金残高が減ります。資金繰り表を作る際には、オーナーの生活費も毎月の資金流出として考慮する必要があります。
4.2 私的な飲食代や生活用品
家族との食事代、日常生活で使用する衣服、生活用品、個人的な旅行代などは、事業用口座や事業用カードで支払っても必要経費にはなりません。
経費になるかどうかは、どの口座やカードで支払ったかではなく、事業のために必要な支出だったかで判断します。
4.3 自宅兼店舗の家賃や光熱費
自宅の一部を事務所や美容室として使用している場合、家賃や水道光熱費の全額を必要経費にはできません。
店舗部分と居住部分を、使用面積、使用時間などの合理的な基準で区分し、事業に対応する部分だけを必要経費にします。国税庁も、店舗兼住宅の家賃や光熱費などは、事業部分と家事部分を適切な基準で按分するよう示しています。
4.4 所得税・住民税と社会保険料
個人事業主本人の所得税や住民税は、事業所得を計算する際の必要経費にはなりません。
また、国民健康保険料や国民年金保険料も、美容室の必要経費としては処理しません。
ただし、国民健康保険料や国民年金保険料は、確定申告で一定の要件を満たす場合、「社会保険料控除」として所得から差し引くことができます。必要経費ではないからといって、税金計算上まったく控除できないわけではありません。
一方、個人事業税は原則として必要経費となります。固定資産税も、店舗など事業で使用する資産に対応する部分は必要経費になります。
5.敷金・礼金・仲介手数料は処理が異なる

美容室の物件を契約するときには、次のような支払いが発生します。
- 敷金
- 保証金
- 礼金
- 保証金償却
- 仲介手数料
- 前払家賃
これらは同じタイミングで支払うことが多いものの、税務上の処理はそれぞれ異なります。
5.1 返還される敷金・保証金
退去時に返還される敷金や保証金は、原則として支払時の必要経費にはなりません。
将来返還される権利が残っているため、「差入保証金」などの資産として処理します。
例えば、保証金として200万円を支払っても、契約上200万円全額が返還されるのであれば、その支払時点では利益は減りません。
預金200万円が、将来返還を受けられる保証金という資産に変わったと考えます。
5.2 返還されない礼金・保証金償却部分
礼金や、契約時から返還されないことが決まっている保証金の償却部分は、返還される敷金とは処理が異なります。
支払の効果が1年以上に及ぶものは、原則として繰延資産に計上し、契約内容に応じた期間で必要経費にします。
一般的な建物賃借の権利金等は、原則5年で償却します。ただし、契約期間が5年未満で、更新時に再び権利金等を支払うことが明らかな場合は、その賃借期間によることがあります。
契約書に記載された「敷引き」「償却」「返還しない金額」などを確認し、返還される部分と返還されない部分を分けて処理しましょう。
5.3 仲介手数料
建物を借りる際に不動産会社へ支払った仲介手数料は、原則として支払った年の必要経費にできます。
礼金や返還されない保証金と同じ繰延資産として処理するわけではありません。国税庁の所得税基本通達でも、建物賃借に際して支払った仲介手数料は、その年分の必要経費に算入できるとされています。
5.4 前払家賃
開業前に数か月分の家賃をまとめて支払った場合でも、原則として、支払った年に全額を必要経費にするのではなく、それぞれの対象期間に応じて経費化します。
敷金、礼金、仲介手数料、前払家賃を「物件契約費用」として一括処理せず、契約書や精算書を確認して分けることが重要です。
6.高額な美容器具は「経費にならない」のではない

シャンプー台、促進器、セット椅子、パソコン、エアコン、内装工事などの高額な設備について、「経費にならない」と説明されることがあります。
しかし、正確には、支払った年に全額を必要経費にできない場合があるという意味です。
長期間使用する設備は、原則として固定資産に計上し、法定耐用年数などに応じて、減価償却費として複数年に分けて経費化します。
例えば、200万円の内装工事を行った場合、その年に200万円を支払っていても、税務上は工事内容ごとに資産区分と耐用年数を判定し、毎年の減価償却費を必要経費にします。
6.1 10万円以上でも全額を経費にできる場合がある
「10万円以上の設備は、すべて法定耐用年数で減価償却する」とは限りません。
主な制度は次のとおりです。
| 取得価額 | 主な処理 |
|---|---|
| 10万円未満 | 原則として使用開始年に全額を必要経費 |
| 10万円以上20万円未満 | 通常の減価償却または3年間の一括償却など |
| 40万円未満 | 一定の青色申告者は少額減価償却資産の特例を検討 |
| 40万円以上 | 原則として法定耐用年数等による減価償却 |
2026年4月1日以後に取得等をする資産については、一定の青色申告者が利用できる少額減価償却資産の特例の対象が、40万円未満へ拡充されています。年間の適用上限は合計300万円です。
ただし、早く経費にすれば必ず有利になるわけではありません。
開業初年度が赤字の場合などは、通常の減価償却によって翌年以降にも経費を残した方がよいことがあります。利益予測や償却資産税も含めて判断しましょう。
6.2 購入日ではなく使用開始日も確認する
減価償却は、原則として設備を事業で使用し始めた時点から開始します。
年末に設備代金を支払っても、設置や工事が終わらず、翌年から営業で使用する場合は、原則として翌年から減価償却を開始します。
購入日、納品日、設置完了日、使用開始日が分かる資料を残しておきましょう。
7.利益が出ているのにお金がない理由

帳簿上は黒字でも、手元資金が不足することがあります。
一般に、利益が出ているにもかかわらず、支払いに必要な現金が不足して事業を継続できなくなる状態を「黒字倒産」と呼びます。
美容室では、次のような取引によって、利益と現金の動きにズレが生じます。
- 借入金の元金返済
- 高額な設備投資
- 敷金・保証金の支払い
- クレジットカード売上の入金待ち
- 所得税、住民税、消費税などの納税
- 社会保険料の支払い
- オーナーの生活費の引出し
- 売上の急減
- 修繕や設備故障による臨時支出
7.1 元金返済は利益を減らさず、現金だけを減らす
借入金の元金返済は必要経費にならないため、損益計算書上の利益を減らしません。
しかし、実際の預金残高は返済額だけ減少します。
例えば、年間利益が300万円あっても、借入金の年間元金返済が240万円、税金や生活費の支払いがある場合、手元に十分な資金が残るとは限りません。
7.2 減価償却費は利益を減らしても、当年の現金支出を伴わない
減価償却費は、その年の利益を減らす必要経費ですが、減価償却費を計上するたびに預金が減るわけではありません。
設備を購入したときに代金を支払い、その後の各年に減価償却費を計上するためです。
そのため、返済に充てられる資金を判断するときは、利益だけでなく、減価償却費や設備投資額なども確認する必要があります。
簡易的には、次のような考え方ができます。
返済や投資に使える資金の目安
税引後利益
+ 減価償却費
- 設備投資
- 借入金の元金返済
- 運転資金の増加
- オーナーの生活費等
実際には、売掛金、買掛金、税金、社会保険料なども含めて確認します。
8.資金ショートを防ぐ3つの対策

8.1 手元資金を確保する
美容室の手元資金について、法律上の一律の基準はありません。
一つの目安として、次のような毎月の固定的な支出の3~6か月分を確保する考え方があります。
- 店舗家賃
- 給与
- 社会保険料
- 水道光熱費
- 広告費
- 借入金返済
- オーナーの生活費
ただし、必要額はサロンによって異なります。
スタッフ数、借入金返済額、売上の季節変動、決済会社からの入金サイクル、納税予定、設備故障のリスクなどを踏まえて判断しましょう。
8.2 資金繰り表を作成する
資金繰り表では、損益計算書だけでは分からない「実際の入金と支払い」を記録します。
最低でも、向こう3~6か月の資金予定を確認しましょう。
主な入金項目
- 現金売上
- クレジットカード・QR決済の入金
- 店販売上
- 融資金
- 補助金・助成金
- その他の入金
主な支払項目
- 材料費
- 店舗家賃
- 給与
- 社会保険料
- 水道光熱費
- 広告費
- 借入金の元金返済
- 借入金の利息
- 設備購入代金
- 所得税・住民税
- 個人事業税
- 消費税
- 源泉所得税
- オーナーの生活費
個人事業主の生活費は必要経費にはなりませんが、実際の資金は減少します。資金繰り表から除外しないようにしましょう。
8.3 納税資金を別に管理する
売上として入金されたお金のすべてを、材料費や生活費に使用してはいけません。
利益が出れば、後から所得税、住民税、個人事業税などの支払いが発生します。
消費税の課税事業者であれば、預かった消費税相当額も、最終的には納税が必要になる可能性があります。
納税時期になってから慌てないよう、毎月一定額を納税用口座へ移すなど、日頃から分けて管理する方法が有効です。
9.借入返済を管理するためのチェックリスト
借入れを行っている美容室では、毎月次の項目を確認しましょう。
- 借入金ごとの残高
- 毎月の元金返済額
- 毎月の利息額
- 返済終了予定日
- 金利と金利変更の有無
- 元金据置期間の終了時期
- 今後6か月間の納税予定
- 設備投資の予定
- 毎月必要な生活費
- 返済後の預金残高
- 固定的支出の何か月分を確保できているか
特に、元金据置期間がある融資では、据置期間終了後に毎月の返済額が大きく増えることがあります。
「現在返済できているから問題ない」と判断せず、将来の返済額まで含めて資金繰りを確認することが大切です。
10.まとめ
美容師が独立後に安定したサロン経営を続けるためには、「お金が出ていく支出」と「利益を減らす必要経費」の違いを理解することが重要です。
借入金の元金返済は、実際には預金が減るものの、必要経費にはなりません。一方、事業のための借入金に対応する利息は、原則として必要経費になります。
また、返還される敷金や保証金は資産として扱われるため、支払時の必要経費にはなりません。礼金や返還されない保証金、仲介手数料は、それぞれ処理が異なるため、一括して経費にしないよう注意が必要です。
シャンプー台や美容器具、内装工事などの設備投資は、支払時に全額を必要経費にできないことがありますが、原則として減価償却によって複数年に分けて経費化します。金額や申告方法によっては、一括償却資産や少額減価償却資産の特例を利用できる場合もあります。
美容室の利益と手元資金は、次の理由から一致しません。
- 借入金の元金返済は経費にならない
- 設備投資は支払額と減価償却費が一致しない
- 敷金や保証金は資産となる
- 税金や生活費は後から資金を減らす
- カード売上は入金まで時間がかかる
利益が出ていることだけで安心せず、借入金返済、設備投資、税金、社会保険料、生活費を含めた資金繰り表を作成し、数か月先の預金残高を確認しましょう。
経費の正しい理解は、税金を減らすためだけのものではありません。利益と現金の動きを正確に把握し、資金不足を防ぎながら、長く安定した美容室を経営するために必要な知識です。





