【完全版】美容室経営のKGI設定マニュアル|売上を倍増させる具体例とKPI管理術

美容室経営の成功は、明確なKGI設定から始まります。なぜなら、KGIは経営の方向性を定め、スタッフ全員の行動を促す原動力となるからです。本記事では、売上や利益向上に直結するKGIの具体例から、失敗しないための設定5ステップ、達成に導くKPI管理術までを網羅的に解説。なんとなくの経営を卒業し、データに基づいた戦略で持続的に成長するサロンを作るための全てがわかります。
1. 美容室経営におけるKGIとは 最初に押さえるべき基本

美容室経営を成功に導くためには、明確な目標設定が欠かせません。その羅針盤となるのが「KGI」です。
KGIとは「Key Goal Indicator」の略称で、日本語では「重要目標達成指標」と訳されます。これは、経営における最終的な目標(ゴール)が、どの程度達成できたかを計測するための重要な指標を指します。
簡単に言えば、「あなたの美容室が最終的にどこを目指すのか」を具体的な数値や状態で示したものです。例えば、「年間総売上を5,000万円にする」「3年後に2店舗目をオープンする」といった、経営の最終ゴールそのものがKGIにあたります。
感覚的な目標ではなく、KGIという明確な指標を掲げることで、日々のサロンワークや経営判断に一貫性が生まれ、スタッフ全員が同じ方向を向いて進むための強力な推進力となります。まずはこのKGIの基本を正しく理解することが、サロンの成長を実現する第一歩です。
2. なぜ美容室経営にKGIの設定が不可欠なのか
日々のサロンワークに追われ、目の前のお客様に集中するあまり、自店の長期的な成長戦略を見失っていませんか?「もっと売上を上げたい」「スタッフに長く働いてほしい」といった漠然とした願いだけでは、激しい競争環境を勝ち抜くことは困難です。KGI(重要目標達成指標)の設定は、そんな美容室経営における成功への羅針盤となります。サロンが目指すべきゴールを具体的な数値で示すことで、進むべき道が明確になり、日々の行動に意味が生まれるのです。

2.1 経営の方向性が明確になる
KGIを設定する最大のメリットは、サロンが進むべき方向性が明確になることです。オーナーの頭の中にある「理想のサロン像」を、「年間総売上1億円」や「3年後に2店舗目を出店」といった具体的な数値目標(KGI)に落とし込むことで、サロン全体の共通認識となる明確なゴールが生まれます。目的地がはっきりすれば、そこにたどり着くための最適なルート、つまり経営戦略や戦術の優先順位が自ずと決まります。これにより、日々の経営判断に一貫性が生まれ、場当たり的な施策や無駄な投資を減らすことができます。
2.2 スタッフのモチベーションが向上する
明確なKGIは、オーナーだけでなく、現場で働くスタッフにとっても重要な道しるべとなります。単に日々の業務をこなすだけでなく、「サロンの目標達成のために、自分は何をすべきか」を一人ひとりが考え、行動するようになります。自分の仕事がサロンの成長に直接貢献しているという実感は、仕事へのやりがいや当事者意識を高め、エンゲージメントの向上に繋がります。共通の目標に向かってチーム一丸となることで、サロン内に一体感が生まれ、個々の成長とサロンの成長がリンクする好循環を生み出します。
2.3 課題解決に向けた具体的な行動がわかる
「最近、客足が遠のいている気がする」「利益が伸び悩んでいる」といった漠然とした不安も、KGIを設定することで具体的な課題として浮き彫りになります。例えば、「営業利益率15%」というKGIに対して現状が10%であれば、「あと5%利益率を改善する必要がある」という明確なギャップが数値でわかります。このギャップを埋めるために「材料費を見直す」「高単価メニューを開発する」「生産性を上げる」など、取り組むべき具体的なアクションプランが見えてきます。勘や経験だけに頼るのではなく、データに基づいた客観的な課題分析と的確な打ち手を導き出すために、KGIの設定は不可欠なのです。
3. KGIとKPIの違いを理解する 目標達成へのロードマップ
美容室経営の目標設定において、KGIとKPIは車の両輪のような存在です。この2つの指標の関係性を正しく理解することが、目標達成への最短ルートを描くロードマップ作成の第一歩となります。どちらか一方だけでは経営のハンドルを正しく切ることはできません。ここでは、それぞれの役割の違いと、それらをどう連携させるべきかを具体的に解説します。

3.1 KGIは最終ゴール KPIは中間目標
KGIとKPIの最も大きな違いは、その指標が示す時間軸と役割にあります。KGIが最終的に目指すべき「山頂」だとすれば、KPIはその山頂にたどり着くための「チェックポイント」や「登山ルート」と考えると理解しやすいでしょう。
KGI(Key Goal Indicator)は「重要目標達成指標」と訳され、経営における最終的なゴールが達成されたかどうかを判断するための指標です。例えば、「年間総売上1億円」や「営業利益率15%」といった、経営の成果そのものを示す数値がKGIにあたります。これは、経営者やスタッフ全員が目指す、たった一つの旗印です。
一方、KPI(Key Performance Indicator)は「重要業績評価指標」と訳され、KGIという最終ゴールを達成するための中間プロセスが、計画通りに進んでいるかを計測・評価するための指標です。KGIである「年間総売上1億円」を達成するためには、「新規顧客を毎月〇人獲得する」「リピート率を〇%に維持する」「客単価を〇円向上させる」といった具体的な行動目標をクリアしていく必要があります。これらの日々の行動や施策の達成度を測る指標がKPIなのです。
重要なのは、設定したKPIを一つひとつクリアしていくことで、結果的にKGIが達成されるという連動した構造を設計することです。KGIという目的地だけを設定しても、そこへ至る道筋(KPI)がなければ、日々の業務はただの作業になってしまいます。KGIとKPIをセットで設定し、管理することで、目標達成までの道のりが可視化され、スタッフは迷うことなく日々の業務に集中できるのです。
3.2 参考 OKRとの違いと美容室での活用法
近年、KGI/KPIと並んで注目されている目標管理手法に「OKR」があります。OKRは「Objectives and Key Results(目標と主要な結果)」の略で、GoogleやFacebook(現Meta)などの先進的な企業が導入したことで知られています。
KGI/KPIとの主な違いは、その目的にあります。KGI/KPIが目標の「管理」や「評価」に重きを置くのに対し、OKRはチームや個人のエンゲージメントを高め、挑戦的な目標に向かわせるための「コミュニケーションツール」としての側面が強いのが特徴です。
OKRは、定性的で心躍るような「Objective(目標)」と、その達成度を測る複数の定量的な「Key Results(主要な結果)」で構成されます。また、OKRでは達成確率が60〜70%程度の挑戦的な目標(ストレッチゴール)を設定することが推奨されており、100%の達成よりも高い目標へ挑戦するプロセスそのものが重視されます。
美容室経営においては、全社的な経営目標としてKGI/KPIを設定しつつ、スタイリスト個人やアシスタントチームの成長目標としてOKRを導入するハイブリッドな活用が効果的です。
例えば、アシスタントチームの目標として、次のようなOKRを設定できます。
- Objective(目標): お客様を最高の笑顔にするシャンプーの達人チームになる
- Key Results(主要な結果):
- シャンプー指名の数を月間〇件獲得する
- お客様アンケートのシャンプー満足度で平均4.8以上を獲得する
- 先輩スタイリストからの技術チェックで全員が1ヶ月以内に合格する
このようにOKRを活用することで、日々の業務に明確な目的意識とやりがいが生まれ、スタッフの自発的な成長を促し、サロン全体の活気とサービス品質の向上につなげることが可能です。
4. 【目的別】美容室経営のKGI設定 具体例5選
KGIは、美容室が目指す未来像や現在のフェーズによって設定すべき内容が大きく異なります。自店の状況に合わないKGIを設定しても、絵に描いた餅で終わってしまいます。ここでは、代表的な5つの目的別に、具体的なKGI設定の例を解説します。自店の課題や目標と照らし合わせ、最適なKGIを見つけるための参考にしてください。

4.1 売上を軸にしたKGI設定例
サロンの成長を最も分かりやすく示す指標が「売上」です。特に、成長期にあるサロンや、まずは事業規模の拡大を目指したい場合に適しています。売上目標はスタッフにとっても理解しやすく、日々のモチベーションに繋がりやすいというメリットがあります。
4.1.1 年間総売上〇〇円
サロン全体の売上規模を示す、最も基本的で重要なKGIです。例えば「年間総売上5,000万円」のように具体的な数値を設定します。この目標を達成することは、サロンの市場における存在価値や成長を明確に示す証となります。金融機関からの融資を検討する際にも、重要な判断材料となります。
4.1.2 スタイリスト一人当たりの生産性〇〇円
サロン全体の売上だけでなく、スタッフ一人ひとりの貢献度と成長を測る指標です。「スタイリスト一人当たりの月間売上100万円」といった目標を設定します。このKGIを追うことで、個々の技術力や接客力の向上がサロン全体の収益力強化に直結することをスタッフ全員が意識するようになり、教育体制の評価にも繋がります。
4.2 利益を軸にしたKGI設定例
売上が伸びても、経費がかさめば利益は残りません。持続可能な経営を目指すためには、利益をKGIに設定することが不可欠です。コスト意識を高め、高収益なサロン体質へと転換させたい場合に有効な目標設定です。
4.2.1 年間営業利益〇〇円
売上から材料費や人件費、家賃などの販売管理費を差し引いた、本業で稼いだ利益のことです。「年間営業利益1,000万円」のように設定します。営業利益は、新たな設備投資や人材採用、将来のための内部留保といった経営判断の源泉となるため、安定経営を目指す上で最も重視すべき指標の一つです。
4.2.2 営業利益率〇〇%
売上高に対して、営業利益がどれくらいの割合を占めるかを示す指標です。「営業利益率15%」のように設定します。この数値が高いほど、収益性が高い経営ができている証拠です。無駄なコストの削減や、付加価値の高いメニュー開発を促すきっかけとなり、筋肉質な経営体質への改善を目指すサロンに最適なKGIです。
4.3 顧客数を軸にしたKGI設定例
美容室経営の基盤は、サロンを支持してくださるお客様の存在です。顧客数をKGIに設定することで、ファンづくりを意識した店舗運営が可能になります。特に新規オープン時や、リピート顧客の育成に課題を感じているサロンにおすすめです。

4.3.1 総顧客数〇〇人
一定期間内に来店した、重複しないお客様の総数です。「年間総顧客数1,500人」のように設定します。総顧客数は、その地域におけるサロンの支持基盤の大きさを示します。このKGIは、リピート施策と新規集客の両輪を回す必要性を明確にし、長期的に安定した経営を目指す上で重要な土台となります。
4.3.2 新規顧客獲得数〇〇人
サロンの未来を創る新しいお客様をどれだけ獲得できたかを示す指標です。「月間新規顧客30名獲得」のように設定します。特に若い層の顧客が減少しているサロンにとっては、新たな客層を取り込み、サロンの活気を維持するための生命線とも言えるKGIです。広告宣伝やSNS発信など、集客活動の効果を測定する上でも役立ちます。
4.4 店舗展開を軸にしたKGI設定例
1店舗の経営が軌道に乗り、さらなる事業拡大を目指すフェーズのサロンにとって、店舗展開は大きな目標となります。スタッフにとってもキャリアアップの道筋が明確になり、組織全体の活性化に繋がります。
4.4.1 〇年後までに〇店舗出店
「3年後までに3店舗出店」「5年後までに都心部へ1店舗出店」など、具体的で夢のあるKGIです。この目標は、単に店舗を増やすことだけが目的ではありません。店長候補の育成や、複数店舗を管理できる仕組みづくり、新たな人材の採用計画など、経営を次のステージへ引き上げるための総合的な戦略が求められます。
4.5 人材育成を軸にしたKGI設定例
美容室の価値は「人」そのものです。スタッフの成長と定着なくして、サロンの長期的な繁栄はありえません。人材をKGIに置くことは、働きがいのある環境を整え、結果的に顧客満足度と売上の向上に繋がる、本質的なアプローチです。
4.5.1 スタイリストデビュー人数〇人
アシスタントがスタイリストとして独り立ちする人数を目標とするものです。「年間スタイリストデビュー2名」のように設定します。このKGIは、サロンの教育カリキュラムやサポート体制が正しく機能しているかを示すバロメーターです。将来の売上を担う人材を着実に育てることが、持続的な成長の鍵となります。
4.5.2 スタッフ離職率〇%以下
スタッフがどれだけ定着しているかを示す指標で、「年間離職率10%以下」のように設定します。高い定着率は、良好な人間関係や適切な労働条件、キャリアプランなど、働きやすい環境の証明です。採用や再教育にかかるコストを削減し、熟練スタッフによる質の高いサービス提供を維持することで、顧客満足度の向上にも直結します。
5. 美容室のKGI設定を成功させる5つのステップ
美容室経営におけるKGIは、単に目標を掲げるだけでは意味がありません。全スタッフが納得し、日々の業務に落とし込める具体的な目標へと昇華させるプロセスが不可欠です。ここでは、絵に描いた餅で終わらせないための、KGI設定を成功に導く5つのステップを具体的に解説します。

5.1 STEP1 現状分析と課題の特定
全ての戦略は、現在地を正確に知ることから始まります。まずは自店の経営状況を客観的な数値データで徹底的に分析し、強みと弱み、そして解決すべき課題を明確に特定しましょう。
分析すべきデータは多岐にわたります。POSレジシステムや予約管理システムのデータを活用し、「売上」「利益」といった財務データはもちろん、「新規顧客数」「リピート率」「失客率」「客単価」「来店サイクル」などの顧客データを詳細に確認します。さらに、「スタイリスト一人当たりの生産性」や「アシスタントの練習時間」といったスタッフ関連のデータも重要です。これらの数値を前年同月比やスタイリスト別で比較することで、これまで見えていなかった課題が浮き彫りになります。例えば、「総売上は伸びているが、新規リピート率が低下している」といった具体的な課題を発見することが、効果的なKGI設定の第一歩です。
5.2 STEP2 3年後から5年後の理想の姿を描く
現状分析で課題が明確になったら、次に視線を未来に向けます。3年後、あるいは5年後に、あなたの美容室がどのような姿になっていたいかを具体的に描きましょう。これは、経営者自身の夢やビジョンを言語化する重要なプロセスです。
「売上〇〇円のサロン」といった数値目標だけでなく、「地域で最もヘアケアに信頼がおけるサロンになる」「スタッフ全員が年収〇〇円以上を実現し、プライベートも充実できるサロンにする」といった、定性的なビジョンを描くことが大切です。この理想の姿が、これから設定するKGIの方向性を決定づける北極星の役割を果たします。スタッフが「その未来を実現したい」と心から思えるような、ワクワクするビジョンを描くことが、組織全体のモチベーションを高める鍵となります。
5.3 STEP3 SMARTの法則でKGIを具体化する
描いた理想の姿を、具体的な行動に繋がる目標(KGI)に落とし込むために、「SMARTの法則」というフレームワークを活用します。これは、目標設定における5つの重要な要素の頭文字を取ったものです。
- Specific(具体的):誰が読んでも同じ解釈ができる、具体的な内容か。「人気店になる」ではなく「年間指名客数1,000人を達成する」など。
- Measurable(測定可能):達成度合いを客観的に測れる、定量的な指標か。「顧客満足度を上げる」ではなく「口コミ評価を平均4.8以上にする」など。
- Achievable(達成可能):現実的に達成できる範囲の目標か。現状からかけ離れすぎず、かつ挑戦しがいのあるレベルに設定する。
- Relevant(関連性):STEP2で描いた理想の姿(ビジョン)と関連しているか。KGI達成がサロンの成長に直結するものである必要がある。
- Time-bound(期限):いつまでに達成するのか、明確な期限が設定されているか。
このSMARTの法則に沿ってKGIを設定することで、目標が曖昧なスローガンで終わるのを防ぎ、具体的なアクションプランへと繋げることができます。
5.4 STEP4 達成期限を明確に設定する
SMARTの法則の「Time-bound(期限)」は特に重要です。期限を設けることで、目標達成へのプロセスに緊張感が生まれ、具体的なスケジュールを立てることが可能になります。
例えば「3年後に年間総売上1億円」というKGIを設定した場合、それだけでは日々の行動は変わりません。この長期目標を達成するために、「1年後には6,000万円」「半年後には月間売上500万円」といったように、中間目標にブレイクダウンします。期限から逆算して計画を立てることで、「今月は何をすべきか」「今週の目標は何か」という短期的な行動目標が明確になり、KGI達成の実現可能性が飛躍的に高まります。
5.5 STEP5 KGIを全スタッフに共有し浸透させる
どれだけ優れたKGIを設定しても、それが経営者だけの目標になっていては意味がありません。最後のステップは、設定したKGIを全スタッフに共有し、サロン全体の共通目標として浸透させることです。
共有の際は、ただ目標数値を伝えるだけでは不十分です。定例ミーティングや朝礼の場で、「なぜこのKGIを設定したのか」という背景や、STEP2で描いたビジョンを熱意を持って語りましょう。そして、サロン全体のKGI達成が、個々のスタッフの成長や待遇改善にどう繋がるのかを具体的に示すことが重要です。「あなたの指名売上が〇円増えることが、サロン全体の目標達成に不可欠なんだ」と伝えることで、スタッフはKGIを「自分ごと」として捉え、主体的に行動するようになります。バックヤードにKGIや進捗状況を掲示するなど、常に目標を意識できる環境を作ることも効果的です。
6. KGI達成の鍵を握るKPI管理術
KGIという壮大なゴールを絵に描いた餅で終わらせないためには、日々の行動レベルにまで落とし込んだKPI(重要業績評価指標)の管理が不可欠です。KPIは、KGI達成までの道のりを照らす道しるべであり、スタッフ一人ひとりの具体的なアクションを促す羅針盤となります。ここでは、KGIからKPIを導き出し、継続的に改善していくための具体的な管理術を解説します。

6.1 KGIからKPIツリーを作成する方法
KPIツリーとは、最終目標であるKGIを頂点に置き、そのKGIを構成する要素を分解してKPIを枝葉のように連ねたロジックツリーのことです。これにより、KGIと日々の業務との繋がりが可視化され、どの数値を改善すれば目標達成に近づくのかが一目瞭然になります。
例えば、KGIを「年間総売上1億円」と設定した場合、以下のように分解できます。
- 年間総売上1億円
- 客数 × 客単価
- 客数 = 新規客数 + リピート客数
- 客単価 = 施術単価 + 店販単価
- 客数 × 客単価
このように分解していくことで、「新規客数を月間〇人増やす」「リピート客の来店サイクルを〇日短縮する」「トリートメントの追加率を〇%向上させる」といった、具体的なKPIが見えてきます。このKPIツリーをスタッフ全員で共有することが、組織全体の目標達成意識を高める第一歩です。
6.2 美容室経営で追うべき重要KPI一覧
美容室経営において追うべきKPIは多岐にわたりますが、ここでは「新規集客」「リピート」「客単価」「生産性」の4つの切り口から、特に重要なKPIを紹介します。
6.2.1 新規集客に関するKPI
安定した経営基盤を築くためには、常に新しいお客様に来店していただく必要があります。集客チャネルごとの効果を測定し、費用対効果の高い施策に注力するためのKPIです。
- 新規顧客数(月間/年間)
- 予約サイト経由の新規数
- SNS・自社サイト経由の新規数
- 紹介による新規客数
- 顧客獲得単価(CPA)
6.2.2 リピート・顧客維持に関するKPI
美容室の売上の大半は、リピート顧客によって支えられます。お客様との長期的な関係を築き、安定した収益を確保する-mark>ために欠かせない指標です。
- リピート率(特に2回目、3回目来店率)
- 顧客離反率(チャーンレート)
- 平均来店サイクル
- 顧客生涯価値(LTV)
6.2.3 客単価向上に関するKPI
売上を伸ばすためには、お客様一人ひとりから得られる売上を高める視点も重要です。付加価値の高いサービス提供ができているかを測る指標となります。
- 平均客単価
- メニュー別構成比率(カラー比率、トリートメント比率など)
- オプションメニュー追加率
- 店販購入率・平均店販単価
6.2.4 生産性に関するKPI
サロンの利益を最大化するためには、スタッフや設備の稼働効率を高めることが求められます。無駄をなくし、効率的なサロン運営ができているか-mark>を評価するKPIです。
- スタイリスト一人当たりの売上(生産性)
- 時間当たり売上
- 座席稼働率
- 人時生産性(粗利益 ÷ 総労働時間)
6.3 KPIの計測と分析に役立つツール
KPIを感覚ではなく、正確なデータに基づいて管理するためには、適切なツールの活用が不可欠です。日々の業務で利用するシステムが、強力な分析ツールとなります。
6.3.1 POSレジシステム
現代の美容室向けPOSレジシステムは、単なる会計機能だけではありません。売上データと顧客情報を紐づけることで、客単価、リピート率、来店サイクル、メニュー別売上といった多くのKPIを自動で集計・分析してくれます。代表的なものに、リクルートが提供するSalon Board(サロンボード)のPOS機能や、Bionly(ビオンリー)、A’staff(エースタッフ)などがあります。
6.3.2 予約管理システム
ホットペッパービューティーに代表される予約サイトや自社の予約システムは、KPI管理の宝庫です。新規・リピート別の予約数や、どの集客チャネルからの予約が多いのかを正確に把握できます。また、予約の埋まり具合から稼働率を算出したり、キャンセル率を分析して機会損失の改善に繋げたりすることも可能です。
6.4 PDCAサイクルでKPIを継続的に改善する
KPIは設定して終わりではありません。定期的に進捗を確認し、改善を繰り返す「PDCAサイクル」を回すことで、初めてその真価を発揮します。美容室の現場では、以下のようにPDCAを回していきましょう。
- Plan(計画):KGIに基づき、具体的なKPIの目標数値を設定します。(例:リピート率を80%から85%に引き上げる)
- Do(実行):目標達成のための施策を実行します。(例:次回来店提案のトークを徹底する、お礼のDMを送る)
- Check(評価):POSシステムなどのデータを用いて、KPIの進捗状況を確認・評価します。(例:1ヶ月後のリピート率が83%だった)
- Action(改善):評価結果を踏まえ、施策の継続・中止・変更を判断し、次の計画に繋げます。(例:トークの徹底は継続し、さらにDMの内容を見直す)
月1回のミーティングなどでKPIの進捗を共有し、次のアクションを議論する場を設けることが、サロン全体の成長を加速させます。
7. 美容室のKGI設定でよくある失敗と対策
KGIは美容室経営の羅針盤となる重要な指標ですが、設定方法や運用を誤ると逆効果になることもあります。ここでは、多くの経営者が陥りがちな失敗パターンと、それを乗り越えるための具体的な対策を解説します。

7.1 目標が高すぎて現実的でない
高い目標を掲げること自体は素晴らしいですが、現状のリソースや市場環境を無視した非現実的なKGIは、スタッフの士気を著しく低下させます。「どうせ達成できない」という諦めムードが蔓延し、かえって生産性が落ちる原因になりかねません。
対策としては、過去のデータに基づいた現状分析を徹底し、少し頑張れば手が届く「ストレッチ目標」を設定することが重要です。例えば、前年比120%の売上目標など、根拠のある数値を設定しましょう。SMARTの法則における「Achievable(達成可能か)」と「Realistic(現実的か)」の視点を忘れないことが成功の鍵です。
7.2 設定しただけで満足してしまう
立派なKGIを掲げたものの、それを壁に貼り出しただけで満足してしまうケースも少なくありません。KGIは設定することがゴールではなく、あくまで経営改善のスタートラインです。具体的な行動計画が伴わなければ、それは「絵に描いた餅」に過ぎません。
この失敗を防ぐには、KGIを達成するための中間目標であるKPIにまで落とし込み、日々の業務と連動させることが不可欠です。設定したKGIをKPIツリーに分解し、各スタッフが「今日何をすべきか」を明確に理解できる状態を作りましょう。定期的なミーティングで進捗を確認し、目標を常に意識できる環境を整えることが大切です。
7.3 定期的な見直しを行わない
一度設定したKGIを何年も変えずにいると、市場の変化や内部環境の変化に対応できなくなります。例えば、新たな競合店の出現、人気メニューの変化、主要スタッフの退職など、経営を取り巻く状況は常に変化しています。古い目標を追い続けることは、経営判断を誤るリスクを高めます。
対策は、四半期や半期に一度など、定期的にKGIとKPIを見直す機会を設けることです。計画通りに進んでいるかを確認し、状況に応じて目標を柔軟に修正していく必要があります。PDCAサイクルを回し続けることで、KGIはより精度の高い、生きた指標として機能するようになります。
8. まとめ
本記事では、美容室経営におけるKGI設定の重要性から具体的な設定方法、KPI管理術までを網羅的に解説しました。明確なKGIは経営の羅針盤となり、スタッフ全員のベクトルを合わせる上で不可欠です。KGIからKPIツリーを作成し、日々の行動に落とし込むことで、目標達成への道筋が明確になります。この記事を参考に、自店の未来を描くKGIを設定し、売上向上と持続的な成長を実現させましょう。