【図解でわかる】美容国保とは?国民健康保険との違いや保険料、加入条件を徹底解説

美容師や個人事業主の方で「国民健康保険料が高い」と感じていませんか?そんな方におすすめなのが、所得に関わらず保険料が一定になる「美容国保」です。この記事では、美容国保と国民健康保険の違いを保険料や扶養、保障内容の観点から徹底比較。図解やシミュレーションを交え、メリット・デメリットから加入条件、手続きまで網羅的に解説します。この記事を読めば、あなたが美容国保に加入すべきかどうかが明確にわかります。

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目次

1. 美容国保とは 美容師や理容師のための特別な国民健康保険組合

美容国保とは、美容師や理容師、エステティシャン、ネイリストなど、美容業界で働く個人事業主(フリーランス)やその従業員を対象とした、特別な国民健康保険組合のことを指します。「美容国保」は通称であり、正式には「国民健康保険組合」の一種です。

私たちが普段「国保」と呼んでいる健康保険は、市区町村が運営する「国民健康保険」です。これに対し、美容国保は、同じ美容業界で働く人々が集まって組織された「組合」が保険者(運営主体)となっています。この運営主体の違いが、後述する保険料の計算方法や給付内容に大きな違いを生み出しています。

つまり美容国保は、美容業界で働く人々の実態に合わせて作られた、同業者による同業者のためのオーダーメイドのような健康保険制度と理解すると分かりやすいでしょう。組合によっては、美容学校の学生が加入できる場合もあります。

1.1 美容国保の目的と役割

美容国保がなぜ存在するのか、その最も大きな目的は、組合員とその家族の生活の安定と福祉の向上を図ることです。これは、同じ職業に就く者同士が互いに助け合う「相互扶助」の精神に基づいています。

美容国保は、主に以下の3つの重要な役割を担っています。

  1. 医療給付事業
    組合員やその家族が病気やケガをした際に、医療機関で支払う医療費の一部を負担します。これは一般的な健康保険証と同じ最も基本的な役割で、自己負担3割で医療サービスを受けられるようにするものです。
  2. 所得保障と付加給付
    市区町村の国保にはない、組合独自の給付制度を設けている点が大きな特徴です。例えば、病気やケガで働けなくなった場合に支給される「傷病手当金」や、出産時に支給される「出産手当金」などがあります。これらは、特に個人事業主にとって、収入が途絶えるリスクをカバーする重要なセーフティネットの役割を果たします。
  3. 保健事業(福利厚生)
    組合員の健康維持・増進を目的とした、さまざまなサポート事業を行っています。具体的には、人間ドックや健康診断の費用補助、インフルエンザ予防接種の助成、契約保養施設(ホテルや旅館)の割引利用など、多岐にわたる福利厚生サービスを提供し、組合員の健康で豊かな生活を支えています。

このように美容国保は、単に医療費を負担するだけでなく、美容業界で働く人々が安心して仕事に専念できるよう、所得保障や福利厚生といった面からも多角的にサポートする役割を担っているのです。

2. 【一覧表】美容国保と国民健康保険(国保)の5つの違い

美容師や理容師として独立した際、多くの方が悩むのが「美容国保」と「国民健康保険(市区町村国保)」のどちらに加入すべきかという問題です。名前は似ていますが、保険料の決まり方から受けられる保障内容まで、両者には大きな違いがあります。ご自身の働き方やライフプランに合った選択をするために、まずは5つの重要な違いを理解しましょう。

ここでは、それぞれの特徴を分かりやすく比較した一覧表と、各項目の詳細な解説をご紹介します。

比較項目 美容国保 国民健康保険(市区町村国保)
保険料の計算方法 所得に関わらず定額 前年の所得に応じて変動
扶養の考え方 扶養の概念がなく、家族も1人ずつ加入し保険料が発生 扶養の概念はないが、世帯単位で加入し世帯主がまとめて支払う
傷病手当金・出産手当金 多くの組合で給付あり 原則として給付なし
加入できる人 美容・理容業に従事する特定の職種・地域の人 他の健康保険に加入していないすべての国民
組合独自の付加給付 人間ドック補助など手厚い福利厚生が充実 自治体によるが、限定的または実施なし

2.1 違い1 保険料の計算方法

最も大きな違いは、保険料の計算方法です。これがどちらの保険を選ぶかの最大の判断材料になります。

美容国保の保険料は、前年の所得や収入に関わらず、組合員の種別(事業主、従業員、家族など)や年齢によって一律に定められています。そのため、収入が増えても保険料が上がることはなく、毎月の支出計画を立てやすいのが特徴です。所得が高い方にとっては、大きなメリットと言えるでしょう。

一方、市区町村が運営する国民健康保険の保険料は、前年の所得に応じて計算される「所得割」と、加入者全員に均等にかかる「均等割」などを合算して決まります。つまり、所得が高くなればなるほど保険料も高くなる仕組みです。逆に、独立したばかりで所得が低い時期や、収入が不安定な場合は、国保の方が保険料を安く抑えられる可能性があります。

2.2 違い2 扶養の考え方

家族がいる方にとって、扶養の考え方は非常に重要です。この点も両者で根本的に異なります。

美容国保には、会社員が加入する健康保険のような「扶養」という概念がありません。配偶者やお子さんなどのご家族も、「家族組合員」として一人ひとりが加入し、それぞれに保険料が発生します。そのため、家族の人数が増えるとその分、世帯全体の保険料負担は大きくなります。

国民健康保険にも厳密な意味での「扶養」はありませんが、「世帯単位」での加入となり、保険料は世帯主がまとめて支払います。保険料は世帯の総所得と加入人数をもとに計算されるため、収入のない家族(専業主婦(夫)や子どもなど)が増えても、所得割は変わりませんが、均等割部分が人数分加算されます。どちらが有利になるかは、世帯構成や所得状況によって変わってきます。

2.3 違い3 傷病手当金や出産手当金の有無

フリーランスや個人事業主にとって、病気やケガで働けなくなったときの収入減少は死活問題です。この「万が一の備え」において、両者には決定的な差があります。

多くの美容国保では、業務外の病気やケガで連続して4日以上仕事を休んだ場合に、所得補償として「傷病手当金」が支給されます。また、出産のために仕事を休んだ際には「出産手当金」が支給される組合も多く、これは会社員が加入する健康保険(協会けんぽ等)に近い手厚い保障です。

これに対し、国民健康保険には原則として傷病手当金や出産手当金の制度がありません。(※新型コロナウイルス感染症に関する特例措置はありましたが、通常はありません)。つまり、病気やケガで長期間働けなくなっても、公的な所得補償は受けられないのです。この保障の有無は、安心して事業を続ける上で非常に大きな違いとなります。

※なお、出産時に一時金が支給される「出産育児一時金」は、どちらの保険制度にもあります。

2.4 違い4 加入できる人(対象者)

そもそも、誰でも美容国保に加入できるわけではありません。加入対象者が限定されている点も大きな特徴です。

美容国保は、その名の通り、美容師、理容師、エステティシャン、ネイリストといった美容関連の事業に従事する個人事業主やフリーランス、およびその事業所で働く従業員を対象とした専門職の組合です。さらに、組合が定める事業実施区域内(例:東京都内、全国など)に居住している、または事業所があるといった地域的な条件も満たす必要があります。

一方、国民健康保険は、会社の健康保険や共済組合、後期高齢者医療制度などに加入していない、日本国内に住所があるすべての人が加入対象となる公的医療保険です。職種や働き方に関わらず、条件を満たせば誰でも加入できる普遍的な制度です。

2.5 違い5 組合独自の付加給付

法定給付(法律で定められた医療費の給付)に加えて、各保険者が独自に提供するサービスを「付加給付」と呼びます。この点においても、美容国保に軍配が上がることが多いです。

美容国保は、組合員の健康増進や福利厚生を目的とした、独自の付加給付が非常に充実している傾向にあります。具体的には、以下のようなサービスが挙げられます。

  • 人間ドックや各種がん検診の費用補助
  • インフルエンザ予防接種の費用補助
  • 契約保養施設(ホテルや旅館など)の割引利用
  • 高額な医療費がかかった際の自己負担額のさらなる軽減
  • 結婚祝金や死亡弔慰金などの慶弔見舞金

国民健康保険を運営する市区町村によっては、付加給付を実施している場合もありますが、一般的に美容国保ほど手厚いサービスは少なく、全く実施していない自治体も珍しくありません。健康管理やリフレッシュの機会を重視する方にとって、美容国保の充実した福利厚生は大きな魅力と言えるでしょう。

3. 美容国保に加入するメリットとデメリット

美容国保への加入を検討する際には、メリットとデメリットの両方を正しく理解し、ご自身の働き方や収入、家族構成に合っているかを総合的に判断することが非常に重要です。ここでは、国民健康保険(市町村国保)と比較しながら、美容国保の利点と注意点を詳しく解説します。

3.1 美容国保の4つのメリット

美容国保は、美容業界で働く個人事業主やフリーランスの方にとって、市町村国保にはない多くの魅力的なメリットを備えています。所得や保障、福利厚生の面から、具体的な4つのメリットを見ていきましょう。

3.1.1 メリット1 所得に関わらず保険料が一定

美容国保の最大のメリットは、前年の所得金額に関わらず、保険料が毎月一定であることです。市町村の国民健康保険は、前年の所得に応じて保険料が変動するため、収入が増えればその分保険料も高くなります。しかし、美容国保は定額制のため、事業が軌道に乗り収入が増加しても保険料は変わりません。これにより、収入が高い方ほど市町村国保に比べて保険料の負担を抑えることができ、将来の資金計画も立てやすくなります。

3.1.2 メリット2 傷病手当金などの手厚い給付

市町村の国民健康保険には原則としてない、手厚い給付制度が用意されている点も大きな魅力です。特に重要なのが「傷病手当金」です。これは、病気やケガで連続して4日以上仕事を休んだ場合に、所得の一部が補償される制度で、会社員の健康保険(協会けんぽ等)に近い保障内容です。万が一の際に収入が途絶えるリスクを軽減できるため、体が資本であるフリーランスの美容師や個人事業主にとって、非常に心強いセーフティネットとなります。また、組合によっては出産時に支給される「出産手当金」や、独自の「死亡弔慰金」などが付加給付として用意されている場合もあります。

3.1.3 メリット3 充実した健康診断や保養施設

美容国保の組合員になると、健康保険の給付だけでなく、組合独自の福利厚生サービスを受けられます。例えば、毎年の健康診断(健診)や人間ドックの費用補助が手厚く、市町村国保よりも充実した内容で健康チェックが可能です。健康を維持することが長く働き続ける上で不可欠な美容業従事者にとって、これは大きなメリットです。さらに、組合が提携する全国の保養施設(ホテルや旅館)を割引価格で利用できたり、インフルエンザ予防接種の補助が受けられたりと、日々の健康管理やリフレッシュに役立つサービスが豊富に用意されています。

3.1.4 メリット4 確定申告で全額社会保険料控除の対象になる

美容国保に支払った保険料は、市町村国保や国民年金と同様に、その年に支払った全額が「社会保険料控除」の対象となります。これは、確定申告を行う際に、年間の総所得から支払った保険料の合計額を差し引ける制度です。課税対象となる所得が減るため、結果として所得税や翌年の住民税の負担を軽減する効果があります。毎年送られてくる「保険料納付証明書」を大切に保管し、確定申告の際に忘れずに申告しましょう。

3.2 美容国保の3つのデメリット

多くのメリットがある一方で、美容国保には注意すべきデメリットも存在します。特に、ご自身の所得状況や家族構成によっては、市町村国保の方が有利になるケースもあります。加入後に後悔しないよう、デメリットもしっかりと確認しておきましょう。

3.2.1 デメリット1 所得が低いと国保より割高になる場合がある

メリットの裏返しになりますが、保険料が所得に関わらず一定であるため、所得が低い方にとっては、市町村国保よりも保険料が割高になる可能性があります。特に、開業したばかりで収入が安定しない時期や、前年の所得が少なかった方の場合、定額の保険料が大きな負担となることも考えられます。加入を検討する際は、必ずお住まいの市区町村役場で国民健康保険料の概算額を確認し、美容国保の保険料と比較検討することが不可欠です。

3.2.2 デメリット2 扶養家族も一人ひとり保険料がかかる

会社員の健康保険とは異なり、美容国保には「扶養」という概念がありません。そのため、配偶者やお子さんなどのご家族を加入させる場合、家族一人ひとりに対して保険料が発生します。市町村国保は世帯単位で保険料が計算されますが、美容国保は加入人数に応じて保険料が増えていきます。扶養するご家族が多い世帯では、世帯全体の保険料総額が市町村国保を上回ってしまうケースがあるため、注意が必要です。

3.2.3 デメリット3 国民健康保険料の減免制度が適用されない

市町村の国民健康保険には、所得が一定基準以下の場合に保険料が自動的に割り引かれる「法定軽減制度(7割・5割・2割軽減)」や、倒産・解雇・雇い止めなど非自発的な理由で失業した場合の「軽減措置」、災害などで収入が著しく減少した際の「減免制度」があります。しかし、美容国保は組合が運営する制度であるため、これらの公的な軽減・減免制度は一切適用されません。万が一、収入が大幅に減少した場合でも、定められた保険料を全額支払う必要があるという点は、事前に理解しておくべき重要なポイントです。

4. 美容国保の保険料はいくら?組合別の料金とシミュレーション

美容国保への加入を検討する際、最も気になるのが「保険料は一体いくらなのか」という点でしょう。美容国保の最大の特徴は、前年の所得に関わらず保険料が一定であることです。ここでは、主要な組合の具体的な保険料と、お住まいの市区町村が運営する国民健康保険(国保)との料金比較をシミュレーションします。

4.1 主要な美容国保組合の保険料一覧

美容国保の保険料は、加入する組合によって異なります。また、組合員本人(被保険者)と家族で金額が変わるのが一般的です。ここでは、代表的な組合の令和6年度(2024年度)の月額保険料を例としてご紹介します。

保険料は年度ごとに改定される可能性があるため、加入を検討する際は必ず各組合の公式サイトで最新の情報をご確認ください。

組合名対象者月額保険料(医療分+後期高齢者支援金分)介護保険料(40歳~64歳の方)
全国美容国民健康保険組合組合員本人22,500円3,500円
家族12,000円
東京都美容国民健康保険組合(東美)甲種組合員23,000円4,000円
家族12,000円

※上記は代表的な組合の例です。その他、地域ごとの組合によって保険料は異なります。
※加入時には、上記の保険料の他に組合費や加入金が別途必要になる場合があります。

4.2 国民健康保険との保険料比較シミュレーション

「美容国保と市区町村の国保、結局どちらが安いの?」という疑問にお答えするため、具体的なモデルケースで保険料を比較してみましょう。国民健康保険料は所得やお住まいの自治体によって大きく変動するため、ここでは「東京都新宿区在住・40歳未満・個人事業主」という条件でシミュレーションします。

4.2.1 ケース1:単身のフリーランス美容師(年収300万円)

まずは、独立したばかりのフリーランス美容師を想定してみましょう。年収300万円の場合、所得金額は約202万円(経費等を差し引いた額)と仮定します。

  • 美容国保(全国美容国保の場合)
    保険料:月額 22,500円(年間 270,000円)
  • 国民健康保険(東京都新宿区の場合)
    所得割+均等割の合計:月額 約22,200円(年間 約266,400円)

このケースでは、所得が比較的低い段階では、国民健康保険の方がわずかに安いという結果になりました。自治体によっては国保の軽減措置が適用され、さらに差が広がる可能性もあります。

4.2.2 ケース2:単身のフリーランス美容師(年収600万円)

次に、事業が軌道に乗り、収入が増えた場合を想定します。年収600万円の場合、所得金額は約472万円と仮定します。

  • 美容国保(全国美容国保の場合)
    保険料:月額 22,500円(年間 270,000円)
  • 国民健康保険(東京都新宿区の場合)
    所得割+均等割の合計:月額 約44,300円(年間 約531,600円)

年収が上がると、国民健康保険料は所得に比例して大幅に増加します。このケースでは、美容国保の方が年間で約26万円も安くなり、圧倒的に有利です。

4.2.3 ケース3:扶養家族がいる場合(本人:年収500万円、配偶者・子1人)

最後に、家族を扶養しているケースです。本人の年収が500万円(所得約380万円)、配偶者は専業主婦(主夫)、子どもが1人いる3人家族で比較します。

  • 美容国保(全国美容国保の場合)
    本人(22,500円)+家族2人(12,000円×2)= 月額 46,500円(年間 558,000円)
  • 国民健康保険(東京都新宿区の場合)
    世帯主の所得割+家族3人分の均等割の合計:月額 約42,900円(年間 約514,800円)

美容国保は扶養という概念がなく、家族一人ひとりに対して保険料が発生します。そのため、このケースでは家族の人数が多いと国民健康保険の方が安くなるという結果になりました。ただし、世帯主の所得がさらに増えれば、この関係が逆転する可能性も十分にあります。

このように、美容国保と国民健康保険のどちらがお得になるかは、あなたの所得、家族構成、お住まいの自治体の3つの要素によって大きく変わります。ご自身の状況に合わせて、両方の保険料を正確に算出し、慎重に比較検討することが重要です。お住まいの市区町村のウェブサイトには国民健康保険料のシミュレーション機能がある場合が多いので、ぜひ活用してみてください。

5. 美容国保の加入条件と対象者

美容国保は、美容・理容業界で働く人々のための特別な健康保険制度ですが、誰でも無条件に加入できるわけではありません。加入するためには、職種、働き方、そしてお住まいの地域など、組合ごとに定められたいくつかの条件をすべて満たす必要があります。ここでは、美容国保に加入するための具体的な条件と対象者について、詳しく解説していきます。

5.1 加入できる職種と働き方(フリーランスや個人事業主)

美容国保に加入できるかどうかは、まずどのような職種で、どのような働き方をしているかによって決まります。特にフリーランスや個人事業主として働く方々にとって、美容国保は大きな選択肢の一つとなります。

対象となる主な職種は、その名の通り美容師や理容師です。多くの組合では、美容師免許または理容師免許を保有していることが必須条件となっています。しかし、組合によっては、エステティシャン、ネイリスト、アイリスト、メイクアップアーティストなど、美容に関連する幅広い職種の方々も加入対象としている場合があります。ただし、対象となる職種の範囲は組合によって大きく異なるため、ご自身の職種が対象に含まれるかどうかは、加入を希望する組合の公式サイトや規約で必ず確認が必要です。

働き方については、店舗に所属せず個人で活動するフリーランスや、自身のサロンを経営する個人事業主(一人親方)が主な対象者です。業務委託契約でサロンワークを行っている方も、多くの場合、加入対象となります。また、個人事業主が従業員を雇用している場合、事業主本人だけでなく、その事業所で働く従業員も条件を満たせば一緒に加入できることがあります。

法人の事業所の場合、原則として健康保険(協会けんぽ等)への加入が義務付けられています。しかし、例外として常時5人未満の従業員を使用する個人事業所であれば、社会保険の適用除外事業所として美容国保に加入できるケースが多くあります。この点は非常に重要なポイントですので、ご自身の事業所の形態と照らし合わせて確認しましょう。

5.2 お住まいの地域や組合による条件の違い

美容国保への加入を考える上で、職種や働き方と並んで重要なのが「地域」の条件です。美容国保組合は、それぞれ管轄するエリアが決まっています。

基本的なルールとして、ご自身が住民票を置いている地域、または事業所の所在地がある地域を管轄する組合にしか加入できません。例えば、東京都にお住まいの方は「東京都美容国民健康保険組合(東美)」、神奈川県で事業を営んでいる方は「神奈川県美容国民健康保険組合」が加入先の候補となります。全国規模で活動している方や、お住まいの地域に特定の組合がない場合は、「全国美容国民健康保険組合」が選択肢となるでしょう。お住まいの都道府県に美容国保組合が存在しない場合は、国民健康保険(市町村国保)に加入することになります。

さらに、組合ごとに追加の加入条件を設けている場合も少なくありません。例えば、以下のような条件が挙げられます。

  • 年齢制限:「満65歳未満であること」など、加入できる年齢に上限を設けている組合があります。
  • 組合員資格:特定の業界団体(例:全日本美容業生活衛生同業組合連合会に所属する各都道府県の組合)の組合員であることが加入の前提条件となっている場合があります。
  • 必要書類:加入手続きの際に、美容師免許証や理容師免許証の写し、開業届の控え、直近の確定申告書の写しなどの提出を求められます。

これらの条件は組合によって細かく異なります。そのため、加入を検討している組合の公式サイトを熟読するか、電話で直接問い合わせて最新の正確な情報を確認することが不可欠です。ご自身の状況がすべての条件を満たしているかを事前にしっかりとチェックしましょう。

6. 美容国保への加入手続きと必要書類

美容国保への加入を決めたら、次はいよいよ手続きです。手続きは組合によって若干異なりますが、基本的な流れは共通しています。ここでは、加入手続きの具体的なステップと、事前に準備しておくべき必要書類について詳しく解説します。書類に不備があると手続きが遅れてしまうため、事前にしっかりと確認し、スムーズな加入を目指しましょう。

6.1 加入手続きの基本的な流れ

美容国保への加入手続きは、おおむね以下のステップで進みます。加入を検討している組合の公式サイトなども併せて確認してください。

  1. 加入資格の確認と組合の選択

    まずは、ご自身の職種、働き方(個人事業主、フリーランスなど)、お住まいの地域が、加入したい美容国保組合の条件を満たしているかを確認します。複数の組合が選択肢にある場合は、保険料や給付内容を比較検討し、加入する組合を決定します。


  2. 資料請求・申込書類の入手

    加入する組合が決まったら、公式サイトから資料請求をしたり、電話で問い合わせをしたりして、加入申込書一式を入手します。組合によっては、Webサイトから直接ダウンロードできる場合もあります。


  3. 必要書類の準備

    申込書と併せて、住民票や美容師免許のコピーなど、指定された書類を準備します。後述する「手続きに必要な書類一覧」を参考に、漏れがないように揃えましょう。特に、現在国民健康保険や社会保険に加入している場合は、資格喪失を証明する書類が必要になるため、切り替えのタイミングも重要になります。


  4. 申込書類の提出

    記入・捺印した申込書と、準備した必要書類を組合の窓口へ持参するか、郵送で提出します。提出期限が設けられている場合もあるため注意が必要です。


  5. 組合による審査

    提出された書類をもとに、組合が加入資格の審査を行います。審査にかかる期間は組合によって異なりますが、通常2週間から1ヶ月程度が目安です。


  6. 保険料の納付と保険証の交付

    審査に通過すると、組合から承認通知と初回の保険料の納付書が届きます。指定された期日までに保険料を納付すると、後日、正式な保険証(国民健康保険被保険者証)が郵送されてきます。この保険証が手元に届いた時点から、美容国保の保険が適用されることになります。


6.2 手続きに必要な書類一覧

美容国保の加入手続きには、あなたの状況を証明するための様々な書類が必要です。組合によって必要書類が異なる場合があるため、必ず加入を希望する組合の公式情報を確認してください。ここでは、一般的に必要とされる主な書類をまとめました。

6.2.1 全員が必要になる主な書類

  • 加入申込書
    組合所定の用紙です。必要事項を正確に記入し、捺印します。
  • 美容師免許証または理容師免許証の写し
    資格を証明するために必須の書類です。A4サイズにコピーして提出します。
  • 住民票
    世帯全員が記載されており、続柄の記載があるものを求められることが一般的です。また、「マイナンバー(個人番号)の記載がないもの」を指定されることが多いので、役所で取得する際に注意しましょう。通常、発行から3ヶ月以内のものが有効です。
  • 事業証明に関する書類
    美容・理容の仕事に従事していることを証明するための書類です。以下のいずれかの写しが必要となります。
    • 税務署の受付印がある「個人事業の開業・廃業等届出書」の控え
    • 税務署の受付印がある直近の「確定申告書(第一表)」の控え(電子申告の場合は「メール詳細」も必要)
    • 店舗の「営業許可証」や「開設届」

6.2.2 該当する場合に必要となる書類

  • 健康保険資格喪失証明書
    現在、会社の健康保険(社会保険)や国民健康保険に加入している方が、それをやめて美容国保に切り替える場合に必須の書類です。保険の二重加入を防ぐために必要となります。退職する会社や、お住まいの市区町村の役所で発行してもらいます。
  • 預金口座振替依頼書
    保険料を口座振替で支払う場合に必要です。金融機関の届出印が必要になります。
  • 非課税証明書(所得証明書)
    組合によっては、所得状況を確認するために提出を求められる場合があります。お住まいの市区町村の役所で取得できます。

7. どの組合がいい?代表的な美容国保の種類と特徴

美容国保は、お住まいの地域や働き方によって加入できる組合が異なります。全国どこでも加入できる組合もあれば、特定の都道府県の事業者しか加入できない組合も存在します。それぞれの組合で保険料や付加給付(独自の給付金)の内容が異なるため、ご自身の状況に最も合った組合を選ぶことが、保険料を抑え、手厚い保障を受けるための重要なポイントになります。ここでは、代表的な美容国保組合の種類とそれぞれの特徴を詳しく解説します。

7.1 全国美容国民健康保険組合

全国美容国民健康保険組合(全美商連国保)は、その名の通り、全国の美容師・理容師などが加入できる、日本で最大規模の美容国保組合です。多くの都道府県に支部があり、フリーランスや個人事業主として働く方々にとって、最も身近で選択しやすい組合の一つと言えるでしょう。

加入対象は、組合を組織する各都道府県の美容業・理容業の組合に加盟している事業所の事業主、従業員、そしてその家族です。地域によっては、エステティシャンやネイリストなども加入できる場合があります。

保険料は所得に関わらず一律で設定されており、組合員(事業主)、家族、従業員といった区分で金額が異なります。傷病手当金や出産手当金はもちろん、人間ドックの受診料補助やインフルエンザ予防接種の補助など、組合員とその家族の健康をサポートする独自の給付が充実しているのが大きな魅力です。引っ越しで他の都道府県に移った場合でも、組合員の資格を継続しやすいというメリットもあります。

7.2 東京都美容国民健康保険組合(東美)

東京都美容国民健康保険組合(東美)は、東京都内で美容・理容業に従事している方を対象とした地域密着型の国民健康保険組合です。加入するには、事業所または住所が東京都内にあることが必須条件となります。

東美の大きな特徴は、地域に根差した手厚いサポート体制にあります。保険料は組合員の種類(第1種・第2種)や家族によって一律に定められています。法定給付(医療費の7割負担など)に加えて、病気やケガで4日以上仕事を休んだ場合に支給される傷病手当金や、出産時に支給される出産手当金など、所得補償の制度が整っています。

さらに、結婚祝金や死亡弔慰金といった慶弔見舞金の制度があるのも東美ならではの魅力です。また、提携している保養施設を割引価格で利用できるなど、福利厚生面が非常に充実しており、東京都内で働く美容・理容業界の方々にとって心強い存在となっています。

7.3 その他地域の国民健康保険組合

全国美容国民健康保険組合や東美の他にも、各地域には美容・理容業に従事する方向けの国民健康保険組合が数多く存在します。これらの組合は、基本的にその都道府県内に事業所がある、または居住していることが加入条件となります。

代表的な地域の組合には、以下のようなものがあります。

  • 神奈川県美容国民健康保険組合
  • 愛知県美容国民健康保険組合
  • 大阪府美容国民健康保険組合
  • 京都府美容国民健康保険組合
  • 兵庫県整容国民健康保険組合
  • 福岡県美容国民健康保険組合

これらの地域密着型組合は、それぞれの地域の実情に合わせた独自の付加給付や健康増進事業(健康診断の補助など)を展開している場合があります。例えば、特定の検診費用を全額補助したり、地域のレジャー施設と提携していたりするなど、組合ごとに特色があります。

ご自身が事業を営む、あるいは働く地域の組合について、「(お住まいの都道府県名) 美容国保」といったキーワードで検索し、公式サイトで保険料や給付内容、加入条件を調べてみましょう。国民健康保険(市区町村国保)と比較検討し、最もメリットの大きい組合を選ぶことが大切です。

8. 美容国保に関するよくある質問

ここでは、美容国保への加入や手続きに関して、多くの方が抱く疑問についてQ&A形式で詳しくお答えします。法人での加入や従業員の扱い、脱退時の注意点など、具体的なケースを想定して解説しますので、ぜひ参考にしてください。

8.1 法人の事業所でも加入できますか?

結論から言うと、法人の事業所(株式会社や合同会社など)は、原則として美容国保に加入することはできません。

法人の事業所は、代表者1名であっても社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が法律で義務付けられています。そのため、美容師や理容師であっても、法人に所属する役員や従業員は、協会けんぽや健康保険組合といった職場の健康保険に加入する必要があります。

個人事業主から法人成りした場合も同様で、法人設立のタイミングで美容国保から脱退し、社会保険への切り替え手続きを行わなければなりません。加入条件は組合によって細かく定められているため、例外的なケースについては、加入を検討している組合へ直接問い合わせて確認することをおすすめします。

8.2 従業員を加入させることはできますか?

常時雇用する従業員が5人未満の個人事業所であれば、従業員を美容国保に加入させることが可能です。

ただし、いくつかの条件があります。まず、事業主自身がその美容国保組合の組合員であることが大前提です。その上で、加入させたい従業員も美容師や理容師など、組合が定める加入対象の職種であることが求められます。

注意点として、常時雇用する従業員が5人以上になった場合、その事業所は社会保険の「強制適用事業所」となります。この場合、事業主は美容国保ではなく、社会保険(健康保険・厚生年金)に従業員を加入させる義務が生じます。パートやアルバイトの加入条件は、労働時間や日数によって異なりますので、各組合の規定を確認してください。

8.3 美容国保と国民年金はセットですか?

いいえ、美容国保と国民年金はセットではありません。それぞれ別々に加入手続きと保険料の支払いが必要です。

美容国保は、病気やケガに備える「公的な医療保険」です。一方、国民年金は、老後の生活や障害状態、死亡に備える「公的な年金制度」です。会社員が加入する社会保険(健康保険)は厚生年金とセットになっていますが、美容国保はあくまで医療保険のみをカバーする制度です。

そのため、美容国保に加入する個人事業主やフリーランスの方は、お住まいの市区町村の役所で国民年金への加入手続きを行い、毎月国民年金保険料を納付する義務があります。保険料の未納期間があると将来受け取る年金額が減ってしまうため、忘れずに手続きを行いましょう。

8.4 美容国保を脱退するときの手続きは?

就職して会社の社会保険に加入する場合や、廃業、他の市区町村へ転居する場合など、美容国保を脱退する際には所定の手続きが必要です。手続きが遅れると保険料が発生し続ける可能性があるため、速やかに行いましょう。

8.4.1 脱退手続きの基本的な流れ

  1. 所属組合への連絡: まず、加入している美容国保組合の事務所に電話などで連絡し、脱退する旨を伝えます。脱退理由(就職、廃業など)も伝えましょう。
  2. 必要書類の入手: 組合から「資格喪失届」や「脱退届」といった書類を取り寄せます。組合のウェブサイトからダウンロードできる場合もあります。
  3. 書類の記入・提出: 届出書に必要事項を記入し、必要な添付書類とともに組合へ郵送または持参して提出します。
  4. 保険証の返却: 脱退する本人および扶養家族全員分の保険証を必ず返却します。新しい保険証が手元に届いてから返却するのが一般的です。

8.4.2 脱退手続きの注意点

美容国保を脱退する際は、保険の空白期間が生まれないようにすることが最も重要です。例えば、美容国保の資格喪失日の翌日が、新しい健康保険(会社の社会保険や市区町村の国民健康保険)の資格取得日になるように、手続きを進める必要があります。

特に、美容国保を脱退して市区町村の国民健康保険に切り替える場合は、美容国保の「資格喪失証明書」が発行されてから14日以内に、役所で国保の加入手続きを行う必要があります。手続きのタイミングや必要書類については、事前に組合と市区町村の担当窓口の両方に確認しておくと安心です。

9. まとめ

本記事では、美容師や理容師など美容業で働く方向けの「美容国保」について、国民健康保険との違いや保険料、加入条件を解説しました。美容国保の最大の特長は、所得に関わらず保険料が一定である点です。そのため、所得が高い個人事業主にとっては保険料を抑えられる大きなメリットがあります。一方で、所得が低い場合や扶養家族がいる場合は、国民健康保険の方が割安になるケースも。ご自身の収入や働き方を踏まえ、両者をしっかり比較検討することが重要です。

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この記事を書いた人

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